第98話 養子になります
「では、どうしてボアソナード公爵家は、私を養女として迎えることを了承してくださったのですか?」
そんな男の娘なんて、嫌でも養子にしたくないはず。
すると、前国王陛下の口から、とんでもない事実が飛び出した。
「もちろん、君の事情を知っていたからだ」
「知っていた!?」
「あぁ、あちらも公爵家だから、それなりの情報網があるのだろう」
「確かにそうかもしれませんが……」
人としては信用できないけど、公爵家当主であるあの男の保身にかける有能さは、嫌というほどに信用できる。
そんな男が、公爵家内部の情報をそう簡単に漏らすとは思えない。
そうなると、ボアソナード公爵家の諜報能力が我が家より遥かに優れているということね。
……なんだか複雑だわ。
「最初は王都で流れている噂から、敵対しているバリストンの弱みを掴めると思い、調べていたらしいが」
「あぁ……」
あの噂ね。
『聖女』アリシアが継母と共に公爵家に来た後、どこからともなく広まった、根も葉もない噂。
すると、フォール様の口から、とんでもない事実が告げられる。
「あぁ、アリシア嬢が家族と使用人たちを巻き込んで流した、あの噂か」
「えっ、あの噂、アリシアが流したのですか!?」
社交にもあまり出ない私は、殿下の婚約者である私を妬んだ誰かが流したものだと思っていた。
でも、まさか義妹が流したなんて……!
「あぁ。大方、『聖女』としての自分の価値をさらに高め、あわよくば、カーラから、あのバカ王子との婚約も『未来の国母』の地位も奪うつもりだったのだろう」
「なるほど」
そうなると、公爵家はもちろん、噂を積極的に否定しなかった殿下も、少なくとも都合よく利用していた可能性が高い。
……むしろ、それを逆手にとってアリシアとの仲を深めたかったのかもしれない。
まぁ、仮にアリシアが動かなかったとしても、あの男なら自ら噂を流していたでしょうけど。
なにせ、あの男の最終目標は、アリシアと殿下のハッピーエンドなのだから。
噂の出どころを知り、深いため息をついた私に、お義祖父さまが口を開いた。
「それで、調べていくうちに……君の不遇さを知って考え方を改めたらしい。実の妹であり、フォールの母親であるジェシカさんからの情報も相まってな」
「お義母さま、ボアソナード家に私の情報を流していたのですか?」
「あぁ、でも、相当骨が折れたらしいが。なにせ、カーラさんはフォールの想い人であることを知っていたから、実家だとしても、安心は出来なかったのだろう。敵対している家に関する情報なら尚更」
要は、私に関する情報を渡すことで、私自身が知らないうちに政争の駒にされる可能性があったというわけね。
もしそうなれば、あの男が口封じに動いていたかもしれない。
『魔力ゼロ』として不要な存在だと思われていた私なら、なおさら狙われてもおかしくない。
お義母さま、私に会う前からそのような配慮をしてくださっていたのね。
「特に、ボアソナードのご令嬢は、カーラちゃんの不遇さに怒り心頭だったらしいわよ」
「そう、だったのですか」
そう言えば、カリナ嬢は私より一つ歳下で、王太子妃候補の一人に名を連ねていた方よね。
「なんだったら、多少強引ではあるが、自分の息子と結婚させようとしていた」
「えっ!?」
「なんだって!?」
これには、さすがのフォール様も知らなかったらしい。
私、ボアソナード公爵家の次期当主と結婚する可能性もあったのね。
敵対している家の娘であることより、私自身を見てくださっていたということなのね。
開いた口が塞がらないフォール様に、ニヤリと笑ったお義祖父さまが追い打ちをかける。
「良かったな、フォール。あの時、婚約者交換に応じて」
「本当ですよ。もし少しでもタイミングが違っていたら、母上の実家と婚約を結んでいたところでした」
疲れた表情でソファーに座り、頭を抱えるフォール様。
その表情は、まるで大切なものを失いかけた人のように青ざめていた。
そんな彼の表情を見て、不謹慎ながら少しだけ嬉しくなっていると、前国王陛下が私に声をかけた。
「というわけでカーラ嬢。君の養子先はボアソナード公爵家になるが……良いだろうか? もちろん、先方にも事情は話してある上、正式な返事ももらっている」
そこまで話が進んでいたなんて……さすが、かつて『賢王』と呼ばれ、この国の繁栄を導いた人ね。
それなら。
「はい。先方がよろしければ、私に異存はございません」
あちらが私の事情を知ったうえで養子として迎え入れてくださるのなら、私としては願ってもない話だわ。
その時、屋敷の呼び鈴が鳴った。
「どうやら、全員揃ったみたいだな。リスタット辺境伯家の現当主とその妻。そして……次期国王と王妃だ」
お義父さまとお義母さまが到着したタイミングで、私たちはこれから先のことについて話し合った。
その中で私は、聖女としての役目を果たすため、フォール様と共に魔物被害に苦しむ各地を巡り、聖女の力で人々を救いながら民の信頼を得ていくことになった。
一方、フォール様は各地の領主や貴族たちと協力関係を築いていくことになった。
――そうして、話し合いから約一か月後。
聖女の力を自在に扱えるようになった私は、予定通りフォール様と共に各地を巡った。
――『未来の国母』として、この国の人々に本当の私を知ってもらうために。
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