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勇者な村人D  作者: ネコモドキ
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勇者な村人D 第23話

久方ぶりの更新です。本当に遅れて申し訳ございません。

 

 夜の酒場。暖かな橙色のランプが優しげな雰囲気を醸し出し、激しい音楽がその場の空気を盛り立てると言うなんとも矛盾した空間。ここ一週間はなんでも魔王軍が攻めてくるとか来ないとかですっかり客足も遠のいていたのだが、今日ばかりは違う。

 王直属の何処かの騎士団が貸切を申し出たのだ。その数凡そ百は超えるであろう、今年一番の儲け。実は、料理や諸々の掃除、その他サービスが普段より充実しているのをこの場の誰も知らない。


「「……最初はグー!ジャーンケーン………」」


 酒場の中央。テーブルや椅子を端に寄せ、今二人の()が向かい合っている。

 右手を引き、後ろ脚をザザッ……と逸らす。練り上げるは闘気。左胸、心臓近くの魔力高炉から純粋で清純な魔力が辺りに迸る。瞬間、溢れ出た魔力が一方が龍を、一方が虎を形取る。唸りを上げ、さして広くない酒場をグルリと一瞥する真紅の龍。片や虎は、何処か落ち着いた歴戦の猛者を思わせる構え。右前脚を小さく出し、尾をピンと逆立て常住先陣の心と共に冷静さが伺える。

 真紅の龍と白亜の虎。両者一歩も引かない睨み合いが続く。永遠とも思える時間。龍が身体から炎を吹き出し、虎が口から絶対零度の息を吐き出したその時!

「ゴクリ」誰の声か。しかし、この声の持ち主は中々に優秀である。なぜなら次の瞬間、この戦いの勝者が決まったからだ。


「「ポンッッ!!」」


「ぐー」←シンク(パンツ一丁)


「パー」←タナ爺さん(フル装備)


「「「おおおおおおぉぉぉぉっ!!」」」


「男って、本当に馬鹿………」←シャル(ジト目)


 絶対零度を思わせる凍てつく視線。そんな冷めた視線さえ流せる程に、この場は熱気で包まれていた。



 ★



「た、タナおじさんに、ネムさんが!?」


 改めて二人に自己紹介をされた事で、少々……いやかなり面食らってしまったシャル。それもその筈、二人は確かに戦闘力は勿論の事、(後で調べればわかる事だが)シンクの言葉が本当ならばその地位も王族に近い。皇都にいればそれこそ、一生を遊んで暮らせるほどの人物があんな辺鄙な村にいるのか……何故かシャルにはそれが少し理解できる気がした。


「久しぶりじゃのう、オーレン・ヴァン・ミストルン?いや、今はオーレン・ガーネットか」


「………お久しぶりです、タナム・オルタナ元帥閣下殿」


 父……オーレンの言葉はいつも通り厳格なもの……に見えるがあれは違う。ガッチガチに緊張してるだけだ。


「ああ、堅苦しいの別に良い良い……それよりな?一つ訓練所を貸してくれんか?」


「はあ……訓練所……ですか?」


「ああ、魔王軍に備えて少しでも戦力を増大せねばならんからのう。何処か良い場所は無いかい?」


「それならば……」


「それならば、《聖騎士》隊が常時使っている第二訓練所は如何でしょうか?」


「シャル……っ」


「良い。少しは自分の意見を言う事も大事じゃぞ?……のう、シャルちゃん」


「ええと………はい?」


 流石にあの話の流れを持って来られても上手く返事を返せる筈もなく、おかしな返事をしてしまう。


「んじゃ、さっさとわしらは第二訓練所へ行くわ。あ、若い騎士に募集を掛けといてくれ。………自由参加じゃがな」


「タナム・オルタナ元帥閣下殿の戦闘をこの目で見れるのですぞ?寧ろ行かぬ騎士の方が少ないのでは?」


「名前は出さずに、『辺境の村からやって来た命知らずのジジイが《単眼の巨人(サイクロプス)》に惨殺されるショーを行うから見たかったら来い』………こんな感じで募集を掛けるのは?」


「さっすがシンク!やはりお前は天才じゃわ」


「本来ならば不敬罪で首を刎ねられている所ですよね、コレ」


「ちょっと待ってくれ……《サイクロプス》とな?《サイクロプス》って言うのはアレか?馬鹿でかくて馬鹿強いあの巨人か?」


 オーレンが眉間を抑えて尋ねてくる。その問いに、ネム、シンク、タナムは何も背負っていない様な口ぶりで、軽く、勤めて軽くこう言った。


「「「それですね」」」


「で、それは今どこに?」


「この王城の丁度真後ろじゃ。見つかったらえらい事になるからのう」


「本来ならば国家反逆罪で、最も苦しい罪を受ける場面よね、コレ」


「で、そこのお前……いや、お前だ、お前。《勇者》のお前。お前は何故、《サイクロプス》だと?」


 この問いは何故、この部屋にいながら《サイクロプス》だと分かったのか……?という事だろう。それについては簡単だ。『見覚えのある気配があるから』だ。

 しかし、この答えでいいのか少し迷ってしまう。一応、村人総出でシンクの真人間矯正を行なったのだが、いかんせんあそこは些か普通の村ではない。普通の村ではない村人が普通の人間を、それも《勇者》を育てられる訳がない。

 そもそもシンクは、客観的に見ても、勿論主観的に見ても《勇者》と呼べる器でもタイプでも無かった。《勇者》とは勇んで前に出る者………真実(・・)を知っているシンクからすれば多少認識に齟齬があるが、一般的な勇者像というのは概ね、それで正しいのだろう。

 だが、シンクは違う。長いものには進んで巻かれに行くし、なんなら粘着剤か何かで固定して、巻かれたままでいるような人間だ。それを恥とも思わぬ人間だ。

 どうしてそんなシンクが未だに《勇者》を続けられているのか、それは勿論、古くから続く呪いのせいであったりもするのだが、実際の所、本当の理由は全く別の場所にある。


 ーーー《約束》をしたからだ。


 幼き獣の王者とした子供騙しの《約束》伝説の元帥と交わした大人の《約束》前線を退き尚支援に徹する復讐の一族、その末裔との悲しき《約束》自らが尊敬して止まないとある英雄ヒーローとの男の《約束》

 そして、恐らくあの英雄ヒーローと同じか、もしくはもっと近くにいる人物。生まれてからずっと、見守ってくれた世界で一番強くて、世界で一番怖くて、世界で一番優しくて、世界で二番目に格好良い、とある小さな魔王との愛の溢れる《約束》

 小さいものから大きいものまで。勿論、取りこぼして来たものは沢山ある。その度に何度血反吐を吐いた事か。何度人生に、運命に心が挫けそうになった事か。


 ふと、己の小指を見る。表面上は綺麗だが、ボロボロの小指。傷付き、傷付け、何度も約束を交わして来た小指。

 とある英雄ヒーローの故郷に伝わる約束が重しになって、枷になって、この小指に、手に、背中にのし掛かってくる。


 ーーーそれでも、前を向いて来れた。だから、《勇者》なんだ。


 前を向く。面倒臭い事はやっぱり止めだ。そのまま、なんの面白みもない、真実を話そう。


「それはですね?幼い頃の修行……や、あれは苦行かな?で、森の中のサイクロプスの群れに放り投げられた事があるんですよね?しかも放りこまれた瞬間、雄が絶命するし……」


 サイクロプスは基本ハーレムを築いている。何よりも、サイクロプスの雄は大変貴重な個体で、そのハーレムの中で雄が生まれた場合、近視相姦をする程である。


「…………」


「まあ、当然烈火の如く怒りますよね?しかも、異物が突然群れの中に入って来た瞬間、雄が絶命したんですもん。じゃあ、狙うべきはその異物でしょ。みたいな事になって一族総出で僕を排除しに来たんですよ。まあ、そこからかな?森の何処へ隠れても見つけられるので、サイクロプスの気配に敏感になったという訳です」


「相変わらず狂った奴らめ…………」


「何か言いました?」


「………いや、なんでもない。で、そのサイクロプスが原因で被害を被る事は?」


「それはない。と保障しよう」


「はぁ、分かった………なら一アワー後に第二訓練所でその様なの催し物(・・・)が開かれると伝えておこう」


「恩にきるわい」


「私としては早く出て言って欲しいだけですよ」


 それからは行動が早かった。城の裏手の方で「『GAaaaaa!!』」なんて金切り声が聞こえたのはそれから数十秒後の事であったのだから。




「…………はぁ、胃が痛い」


 誰もいなくなった王の間でオーレンが一人ごちる。それから、口を開いて出来た言葉は、少々意外なものだった。


「…………オーネット、今日、シャルが私に反発したよ……嬉しいなぁ……それもこれも、あのガキの仕業だと思うと腹立たしい事この上ないが………シャルは、元々純粋な戦闘力で言えばあの方達を除いて誰にも手出しが出来んほどだったからなぁ………そろそろ僕も引退かな……もしシャルがあの男を連れて来たらいや、本当腑が煮えくりかえそうだよ。ああ……まだまだ近くにいて欲しいったら言うのはやっぱり……親のエゴなんだろうなぁ……」


 それから「はぁ……」と短く溜息を吐くと、先程の事がまるでなかったかのように、魔王対策についての数々の書類へと目を通すのであった。




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