四個目 二人目の最終決戦幼女
叫び、悲鳴、慟哭。痛ましい泣き声を全く気にせず、ミリーはキャタピラを回し進む。
ギャリギャリと音を立てながら、ぽっかりと開いた入口の中を進軍していた。
ミリーはエレベータの前まで向かい、重い車体の動きを止める。ひとしは白い顔をしながらも不思議に思い、ミリーへ声を掛けた。
「どうしたんだい?」
「エレベータに車体が乗り込めません! ファックです! 業務用はどこだ!」
「業務用でも乗らないと思うよ?」
ひとしの言葉を聞き、ミリーは一つ舌打ちをした後に、人型へ戻った。戦車が消えたことにより、ひとしだけでなく周囲の人までがホッとした表情を見せる。
だがそんな余裕はない。ひとしの腕は掴まれ、エレベータへと乗り込ませられた。当然引っ張ったのはミリーだ。
「ひとしさん! 行きましょう!」
「行くのはいいけれど、どこへ?」
「大丈夫、ミリーにお任せです」
誰もがうっとりしてしまうような表情を、ミリーは浮かべる。しかしひとしはその笑顔を見て、とても邪悪な物を感じ取っていた。またなにかやらかすのだろう、と。
いきなり腕を銃に変えてぶっ放す可能性すらあったのだが、ミリーはエレベータに手を伸ばしただけだった。そして少しだけ待つと、ミリーはその手を放す。
「地下に怪しげなスペースがあります! そこが本拠地です!」
「……どうして分かったの?」
「このくらいのセキュリティ、ちょちょいのちょいです! ついでにそのルームの場所が、ネオPS団集会所になっていたからです!」
そんな安直な名前を付ける方もどうかとは思ったが、ひとしは口を噤んだ。どうせ何を言っても変わらないからだ。
ミリーはエレベータのボタンをちゃちゃっと押す。すると、カチャリと隠しボタンが現れた。ボタンの上に書かれていた文字を読むと、地下集会所直通ボタンとなっていた。
だがひとしは気づいていた。そんなことをしなくても、隠しボタンがある場所は指で引っ張れば開く、ざるなセキュリティだったのだ。カバーがぴらぴらと動いていたのだから、間違いない。
しかし結果が同じであるのならばいいだろう。二人は気を引き締めなおし、隠しボタンを押して地下集会所へと向かった。
エレベータは音も立てず、静かに地下へと向かう。
そしてスアーマと謎の音を立てた後、止まった。どうやら目的地へと辿り着いたらしい。
少しだけひとしが緊張していると、その手をミリーが優しく握った。
「ひとしさんのことは私が守ります!」
「……うん」
ひとしは最初からそんなことは心配していない。気にしていたのは、地下でぶっ放した後、どれだけの被害が出るかということだった。
本音を言ってしまえば、ミリーにネオPS団の悪事の情報を抜き取ってもらえれば、戦う必要はない。だが、それが無理であることもひとしは理解していた。
エレベータから出てすぐ、ひとしの目の前でツインテールをふりふりと動かしているミリー。早く掴んで下さいとばかりに、ちらちらと見ている。
彼女にできるのは潜入工作ではなく、破壊工作だろうとため息をついた。
「ミリー、まずはバレないように潜入しよう」
「なるほど、奇襲ですね!」
ミリーはひとしの提案を受け入れた。しかし実際のところ、二人の侵入はとっくにバレている。入口を砲撃でぶっ飛ばしたのだ。バレていないわけがない。
だがひとしは、少しでも穏便に済ませようとミリーを騙したのだ。ミリーも気づいていたが、そこは夫を立ててくれていた。
二人は人の気配から逃げるように、目的地へと向かう。
「生産ラインが……」
「増やさないと、受注が……」
ネオPS団の悪逆な話を聞き、ひとしはぎりっと歯ぎしりをする。
早くなんとかしなくてはいけない。この間違った組織を潰すことで、すあまを守らなければならない!
ひとしは決意を新たにしながら、こそこそとミリーと集会所へと向かった。
辿り着いた集会所の扉の前には、見張りの一人もいなかった。油断しているのだろうと、ひとしは判断する。
どうやって侵入するべきかを考えていると、隣にミリーがいないことに気付く。ミリーは、扉に手をかけていた。
そしてひとしが止めるよりも早く、バーンッと扉を開いたのだ。
「ネオPS団! あなたたちをぶっとば……卑劣な行いを止めるため、ひとしさんとミリーが現れましたよ!」
広いホールの中には、たくさんの机が並んでいる。そして楽し気な人々が笑顔で和菓子を摘まんでいた。
立食パーティーのような状況。中にいる人たちは、きょとんとした顔で和菓子を食べながら二人を見ていた。
「君たちも社員かな? それにしては若い気がするけど……」
「丸山さんのうちの子じゃない? 今日はお子さんも招待するって……和菓子食べる?」
ミリーはネオPS団の懐柔策を振り払い、壇上のメイス=スアーマンへ指先を向けた。
ビシッと指を向けたのだが「角度が少し悪いですね……」とか言いながら、左手でピースマークを作り、自分の左目を囲い、片足を曲げながら指を突き付けなおした。
そのアイドルみたいなポーズが必要だったのかは、ひとしには分からない。だがあえてスルーした。
「……また現れたか、ミリー! お前たちが来ていることは知っていた! だが一つ聞いておこう!」
「謝っても許す気はありません!」
「地下集会所へ来るには、厳重なセキュリティを越えなければいけない! どうやって辿り着いた!」
「そんなの、ちょちょいのちょいです!」
ミリーが腕を組んで顎を上げて偉そうにしているのを見て、メイス=スアーマンは自分たちのセキュリティが甘いことを理解した。
ひとしが「がばがばのセキュリティでしたよ?」と言わなかったのは、一重に彼の優しさからだろう。ネオPS団のような悪の結社相手にも優しさを見せる。ひとしは慈愛に満ちた人間だった。
「くっ……ふっ、ふははははははっ! 甘いな! いくらミリーがいようとも、我々にはミリーを越える秘密兵器が用意されている! 捕縛した後、お前たちにも和菓子の素晴らしさを教えてやろう! 来い! 超重量級最終決戦幼女マリー! ……マリー?」
きょろきょろとメイス=スアーマンは周囲を探すが、マリーは見つからない。ミリーは今がチャンスと、ひとしへ振り向き……止まった。
そこには見知らぬ銀髪セミロングの幼女がおり、ひとしに纏わりついていたからだ。
「お兄さんこんばんは! 覚えていますか?」
「マリーちゃん? こんばんは。こんなところで何をしているんだい?」
「もしかして、これって運命の出会いですか? きゃっ///」
マリーのまるで話を聞かない態度は、ミリーを思い出させる。ひとしの背に冷たい汗が流れた。
ひとしが冷や汗を流し、ミリーが怒りに震え、マリーがにこにこと笑う。そんな中、一番最初に怒鳴り声を上げたのはメイス=スアーマンだった。
「マリー! 何をしている! その二人はネオPS団の敵だ!」
「ごめんなさい、私お兄さんの仲間になります」
「裏切るの早すぎないか!?」
メイス=スアーマンの叫びも無視し、マリーはひとしの前へと進み出た。そしてセミロングの髪を、器用に結ぶ。
握れと言わんばかりの結ばれた髪を見て、ひとしは一歩退いた。
「お兄さん、私の髪を掴んでください! ……あっ、でも優しくお願いします///」
「ごめん、はにかみながら言われても握りたくない」
「そうです! ひとしさんはミリーの髪しか握りません! さっさとメイス=スアーマンのところに戻りなさい! この銀髪ビッチ!」
「ビッチじゃありません! 私はひとしさん一筋です!」
二人が言い争っている間に、周囲は取り囲まれる。逃げ場がないことに気付き、ひとしは敵を見回しながらも自分の失態を認めた。
じわりじわりと包囲は狭まる。絶対絶命の中、ひとしは強く拳を握った。……握った時に気付く。何かさらさらとしたものを握ってしまったことに。
そこにはマリーの頭があった。マリーはひとしの手の近くに頭を持っていき、見事握らせたのだ!
「任せてくださいお兄さん! |決戦変形《DEATH or HELL》!」
「やっちまった……」
「わ、私のひとしさんがー!」
二人は光に包まれる。ひとしは項垂れたまま、この後の惨状を考えてため息をつく。今度は何になるのだろう? 列車砲が出てきても驚きはしない。
もうどうにも出来ずにいると、光が収まる。しかしマリーの変身は、ひとしを驚かせた。
ひとしが握っていたのは……一本の大きな剣だった。
「これは……」
「はい! 私です! ネオPS団を共に打ち倒しましょう!」
「私のひとしさんがー!」
ミリーの嘆きは聞こえていたが、ひとしは正直高揚していた。大きな銀色の剣。自分を包む銀色の鎧。これこそ厨二病を捨てきれない、ひとしが望んでいた姿だった。
身の丈を越える剣を持っているにも関わらず、重さは感じず体は軽い。鎧だってフィットしていて動きを阻害するものはない。
ひとしはにやりと笑い、剣を構えた。
「ネオPS団! 年貢の納め時だな! 正義の裁きを受けろ!」
踏み込み剣を勢いよく横なぎにしようとしたとき、ひとしはミリーに掴まれて転びそうになる。なんとか踏みとどまったが、剣は天井へ向けて振るわれた。
「私のひとしさんをがえじでぐだざいー!」
「ミリー邪魔を……」
ドガーンと音がし、剣から現れた光が一文字に天井を切り裂く。崩れた天井から瓦礫が落ち、数人の人の上へと降り注いだ。
その光景を見て、ひとしは自分が思い描いたものと、何かが違うことに気付いた。
格好良く素早く動き、峰打ちで敵を払っていくつもりだったのだが、とてもそんな威力ではない。これは一体どういうことだろうと、剣になったマリーへと話しかける。
「マリー? 威力が高すぎる気が……」
「ヒャッハー! てめぇら皆殺しだー!」
類は友を呼ぶ。決戦兵器は決戦兵器を呼ぶ。
ひとしは自分の考えが間違っていたことを理解し、乾いた笑いを上げた。




