第八章 愛憎の行方③
「……あと三十秒で十分経過します。私たちも動きましょう」
森の中。レイハート家の別荘が視認できる場所にて、パメラが呟く。
「うす。了解っす」
腕を頭の後ろで組み、ラックが頷く。
「そんじゃあ散会するっすか。けど、速攻で破談になるっすかね? それぞれ鎧機兵を召喚しとくっすか?」
「……即座に戦闘の可能性はありますが」
パメラはラックの方を見やる。
それから、レミとラミの双子姉妹、ルシアの方にも順に視線を向けた。
「鎧機兵は目立ちます。召喚はまだ控えましょう」
そう告げた。ラックが「うす」と頷き、
「「了解っ」」「承知いたしましたわ」
双子姉妹と、ルシアはそう答えた。
と、その時だった。
『……ふむ。正しい判断だな』
不意にくぐもった声が森の中に響いた。
パメラたちは表情を険しいモノに変えた。
声は繁みの奥から聞こえた。
パメラたちは全員短剣を抜き放ち、間合いを取った。
『だが不運だな。いや、この場合、己が幸運だったと言うべきか』
そう告げて、繁みの奥から現れたのは全身鎧の騎士だった。
――白金仮面である。
「……どうしてこの場所が……」
短剣を逆手に構えて、パメラがそう問い質すと、
『なに。以前、私用でこの周辺を調べさせたことがあるのだ。ここはあの別荘の監視に向いた場所の一つだったからな』
と、白金仮面は答えた。
『候補の場所を手当たり次第当たるつもりだったのだが、最初で大当たりだ。それも散会する前とは実に幸運だな』
「……なるほど。地の利ということですか」
パメラは双眸を細めた。ラックたちも警戒する。
数的には有利だが、相手はザーラが警戒していた人物の一人だ。対人戦がどれほどの実力なのかは未知数だ。
(さて。どうしますか)
こちら側で最も対人戦に優れているのは元傭兵であるラックだ。
ルシアは戦術家タイプのため、戦闘自体は不得手だ。鎧機兵戦ならばともかく、対人戦ではあまり期待できない。
また、ラミとレミの双子も対人戦は不得手としている。二人ともかなり小柄なため、体格的に対人戦は向いていないのだ。
(ですが、二人にはあの切り札があります)
あの双子には特殊な異能があった。
使用するには二人が手を繋いでいなければならないという制約もあるが、強力な異能である。流石にその情報は相手も知らないはずだ。
(私とラックで牽制します。そして隙を見てラミたちの異能を使用します)
二人の戦闘中に鎧機兵の召喚することも選択肢にはあるが、流石に妨害されることは目に見えている。ルシアや双子では召喚前に殺されてしまう可能性があった。
(犠牲を前提にするのなら、鎧機兵の召喚も可能です。ですが)
パメラは双眸を細めた。
自分たちはザーラの兵団であると同時にザーラの女なのだ。
勝利のために自分の命を軽視することなど、ザーラは望んだりしない。
パメラはラックの方に視線を向けた。
ラックはパメラの考えを察してくれたようだ。小さく頷いた。
「一応確認しますが」
パメラは白金仮面を見据えて問う。
「あなたは白金仮面ということでよろしいのでしょうか?」
この時代遅れの珍妙な出で立ち。情報通りの姿だ。
まず間違いないだろうと思ったが、パメラは一応確認した。
すると、
『むむ。これは失礼した。己としたことが』
赤い外套を翻して、全身鎧の騎士は声を張り上げた。
『――声がする! 救いを求める心の声が!』
いきなりの大音声に、ルシアと、双子姉妹はビクッと肩を震わせた。
ラックは目を丸くし、冷静なパメラでさえギョッとしている。
一方、構わず騎士の口上は続く。
『泣くことはない! 悲しむことはない!』
騎士は右腕を薙いた。その拳をぐっと固めて、
『すべての嘆きは我が断つ! 悪よ! 震えるがいい! いざ! 全天に正義を示すために!』
そうして騎士は名乗った。
『白金仮面、ここに推参ッ!』
もし愛機に搭乗していたのならば、ここで後方を爆発させて土煙を上げるのだが、残念ながら今回はなしだ。
その代わりに静寂が森の中に満ちる。
パメラを筆頭に女性陣は実に冷めた眼差しを見せていた。
まあ、唯一ラックだけは「おお」と変な共感を抱いていたようだが。
『さて。これで名乗りは上げたな』
それに対し、何事もなかったかのように白金仮面は腰に片手を当てた。
『出来れば、そちらにも名乗って欲しいものだな。口上があるのなら待つぞ?』
「うす。了解っす。我こそは――」
「……待ちなさい」
変なポーズをとって、名乗りを上げようとするラックをパメラが止める。
「うぐっ」と無念そうに呻くラックをよそに、パメラは白金仮面を見据えた。
「我々には口上などありませんが、名乗ってはおきましょう」
一拍おいて、
「我々は獅子兵団。ザーラレット=レガシィの私設兵団です」
『ふむ。やはりそうだったか』
白金仮面はパメラたちを順に見やる。
『女性ばかりか。まだ幼い少女たちもいるのか。名を聞かせて欲しい』
「……我々の名を聞いてどうするのです?」
パメラが眉をひそめて問う。
「所属さえ分かれば充分でしょう」
『いやなに。これは己のこだわりのようなモノだ』
一方、白金仮面はこう返した。
『お前たちは中々の強者のようだからな。幼き少女たちもいる以上、可能ならば無力化で済ませてやりたいが、それは困難やもしれん。ならば』
仮面の下で微かな苦笑を零して、白金仮面――ハワード=サザンは言う。
『殺すやもしれん相手の名前ぐらいは憶えておきたいではないか』




