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悪竜の騎士とゴーレム姫【第16部更新中!】  作者: 雨宮ソウスケ
第16部

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第五章 その心は⑤

 深夜の廊下。空気が張り詰める。

 マイアは重心を低くして、ナイフを構え直した。


(殺すのは悪手。けど……)


 双眸を細める。

 この少年は間違いなく強い。

 殺さずに撤退は難しいと感じていた。


(だったら即座に殺して死体を遺棄するのが次善案ね)


 そう判断した。

 戦闘の痕跡を残すのも厄介だ。

 最速で暗殺する。マイアは音もなく動いた。

 そして驚くべきことに廊下に並ぶ大きな窓を駆け上った。この勢いで人の体重が乗れば本来ならガラスは砕ける。自重を極限にまで殺すことで出来る技だった。

 そして少年の後ろに回り込んで着地。

 影のように少年の後ろに回り込んで、喉元にナイフを当てた。

 そのまま喉を掻っ切ろうとするが、


(――な)


 マイアは目を見張った。

 ナイフが動かない。刃を少年が指で押さえていた。たった三本の指に過ぎないのに動かすことが出来ない。

 さらに後ろ手にマイアの腹部に少年の手が添えられた。

 マイアがギョッとしていると、

 ――ズンッ!

 腹部に衝撃が奔る!

 マイアは「ごふッ!」と息を吐き、吹き飛ばされた。

 ナイフも握ってはいられない。彼女は廊下をゴロゴロと転がった。

 しかし、すぐに立ち上がる。

 呼気を激しく乱しながらも、予備のナイフを取り出した。


(あ、あんな無理な体勢でどうやってこんな打撃を……)


 困惑するが、戦闘はまだ続いている。

 少年がゆっくりと振り返る。マイアは急ぎ呼気を整えてナイフを構えた。

 その表情に余裕はない。

 ナイフを投擲する。それは真っ直ぐ少年の眉間へと飛んだ。

 しかし、そのナイフは少年の手で掴まれた。しかも二本だ。一投目の直後に同じ軌道で投げた影刃(かげは)も簡単に防がれてしまった。


(――く)


 マイアはまたナイフを取り出した。

 少年は掴んだ二本のナイフを捨てつつ、少し驚いた顔をする。


「それで四本目か。凄いな。いくつ隠し持っているんだ?」


 そんなことを言う。

 マイアはギリと歯を軋ませた。


「私を舐めるな!」


 そう言って、マイアは駆けだした。

 そうして――……。



「……本当に凄かったな」


 廊下にて、コウタは驚きの声を零した。

 その腕の中にはマイアがいた。コウタの肩に倒れ込んだ姿でピクリとも動かない。

 だが、息はしている。どうしようもなく追い込まれて自害しようとしたところを、コウタが気絶させて止めたのである。


「全部で何本あった?」


 コウタがそう尋ねると、


「……ウム」


 ガシュン、ガシュンという足音が近づいてくる。零号の足音だ。少し離れた場所にはサザンXの姿もある。


「……コッチハ、十五本ダ」


「……アニジャ。コッチハ、ハチホンダ」


 と、サザンXもコウタの方に近づいてくる。二機とも両手にナイフの束を抱えていた。コウタが遠話で零号を呼んできてもらったのだ。


「どこにこんなに隠し持ってたんだろ?」


 と、コウタは首を傾げて疑問に思う。ジェシカの時もそうだったが、暗殺者はどうも不可解な一芸を持っている印象だった。

 ともあれ、コウタは少女の腰を抱き寄せて、その顔を改めて見やる。

 短い灰色の髪の少女である。綺麗な顔立ちをしているが、それだけに右頬に深い傷が印象的だった。マフラーはこれを隠すためだったのだろうか。


「……零号。マフラーも拾ってきてくれる?」


「……ウム。マカセロ」


 零号は頷いて、廊下に落ちているマフラーを拾いにいった。

 一方、コウタは少女の顔を再び見やる。


(……この容姿。リノが言ってた一人か)


 身長や灰色の短い髪が一致する。

 ザーラと名乗る盗賊団の女頭目と一緒にいたという兵団員の一人だ。このタイミングでサザン伯爵の館に現れたのだ。その可能性は心のどこかで考えてはいた。


(……レオス=ボーダーの弟子の一味か)


 コウタは双眸を細めた。流石に心がざわついてくる。

 けれど、リッカは暴走しないと言った自分の言葉を信じて、今は安堵して眠っているのだ。その約束を違える気はなかった。

 コウタはかぶりを振って小さく息を吐いた。


(いずれにせよ、まずは確認か)


 コウタはサザンXに目をやった。


「サザンX。ジェイクを起こしといてくれないかな。これから行くって」


「……ウム。ワカッタ」


 ナイフの束を抱えたまま、サザンXは頷くが、


「……ヒメタチハ、オコサナクテ、イイノカ?」


「リノたちの方は明日の朝にするよ。今みんなを起こすと、リッカも起こさないといけないだろうし」


 明日の朝、リノたちには色々と怒られてしまかもしれないが、今夜だけはリッカを休ませてあげたかった。


「……ウム。リョウカイダ」


 サザンXは頷き、ガシュン、ガシュンと歩き出した。

 コウタは気絶した少女を抱き上げた。

 それから零号の元に近づくと、零号は自分の口元にマフラーを巻いていた。


「……似合ウカ? コウタ」


「うん。似合ってるけど、それこの子のだからね」


 コウタは苦笑を浮かべた。


「とりあえず、この子には色々と白状してもらおうと思う。リノの言っていた女の一派なのか。あまり手荒な真似はしたくないけど洗いざらいにね」


「……ム? 拷問ヲ、スルノカ?」


「いや、しないから」コウタは渋面を浮かべた。


「ちゃんと騎士法に則った尋問だよ」


「……ソウカ? リノヤ、アヤメハ、容赦シナイ気ガスルゾ」


「……う。それを考えると、今夜中に白状してくれる方がいいのかな?」


 苛烈な性格をしている二人を思い浮かべて、コウタは何とも言えない顔をした。

 あの二人は捕虜に対して一切手加減をしない気がする。


「ともあれだよ」


 コウタは双眸を細める。


「これは僥倖と思うべきかな。あっちは所在不明の兵団だ。上手くすればこれでこっちが先手を取れるかもしれない」


 そう呟いて、眠れる暗殺者を抱きつつ、夜の廊下を歩き出すコウタだった。










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