第五章 その心は①
「……はァ。やっぱりこうなったよ」
サザン伯爵邸の一室。
コウタに割り当てられた部屋に、コウタたち一行は全員集まっていた。
かなり豪勢な客室だった。全員が入っても狭さを感じないほどだ。
コウタは大きなベッドの縁に座っている。メルティア、リーゼ、リノの三人がテーブル席に座り、エルとアヤメ、アイリはローテーブル前の大きなソファーに座っている。ジェイクは一人用のソファーに腰を掛けていた。リッカは壁際に立っている。その隣にはメルティアが脱いだ着装型鎧機兵が控えていた。
なお、二機のゴーレム――零号とサザンXの姿だけはない。サザン伯爵の許可を得た上でこの館を探検しているからだ。
「……はァ」
コウタは再び重いため息をついた。
結局、この状況では宿泊を遠慮することも出来なかった。
ただ、実際のところ、アイシャと伯爵の婚約は確定した事実だが、まだアイシャの姉であるレナと、コウタの兄が結婚すると決まった訳ではない。
そのため、これはまだ可能性の話であり、縁戚とまでは言えないはずなのだが、コウタの直感ではそれはもう確定事項と感じていたので拒否できなかったのだ。
「見事なまでに予想通りの展開だったな」
と、ジェイクが苦笑を浮かべて言う。
「やっぱ、アイシャさんが嫁さんだったか。もう伯爵さんとの縁戚ルートは避けれそうになさそうだな」
「ううゥ、言わないでよ。ジェイク」
コウタは呻いた。
すると、リノが立ち上がり、コウタの隣に座り直すと背中を叩き、
「しっかりせんか。そなたが抱えておるモノに比べれば些細な上乗せじゃ」
「……まあ、そうだよね」コウタはリノを見つめた。
それからテーブル席のメルティア。
彼女と向かい合って座るリーゼの方にも目をやった。
リノ。メルティア。リーゼ。
コウタが生涯を共にすると決めている少女たちだ。
その肩書は、裏組織の社長令嬢に、公爵令嬢二人である。
対し、コウタは平民だ。しかも小さな村出身の農民だ。
今は騎士候補生という肩書もあるが、三人に比べればあまりにも弱い。
(ボクは、ジェイク以上に『英雄』にならないといけないんだ)
改めてそう思った。
それが出来なければ、彼女たちを妻として迎えることは出来ない。
そもそも三人だけではない。
結ばれてこそいないが、他にも大切な人がいるのだ。
王家を捨ててでも自分に付いてくる覚悟をしてくれたエル。
一族総出で忠誠を誓ってくれるアヤメ。
深く傷つき、それでも生きるために前を向いてくれたリッカ。
暗殺者から足を洗うため、今は旅に出ているジェシカ。
(ボクは彼女たちも好きなんだ)
今はそう自覚している。
そして全員に対して責任があることもだ。
彼女たちとは違うかもしれないが、可愛い妹分であるアイリも守るべき子だ。
どれほど困難であっても、彼女たち全員を幸せにする未来を掴むのだ。この程度で落ち込んでいる暇はなかった。
(よし)
コウタはパンと頬を叩いた。それからリノを見やり、
「ありがとう。リノ。その通りだった。気合が入ったよ」
「ふむ。よかったの」
リノは笑う。続けて悪戯っぽく微笑み、
「ならば、ご褒美に今宵はわらわを甘やかしてたもれ」
両腕を広げてそう願うが、メルティアとリーゼがジト目を向けた。
「ちゃっかりしないでください。ニセネコ女」
「その通りですわ。次の順番はすでに決めたでしょうに」
と、二人は言う。次いで二人揃ってリッカの方へ目をやった。
壁際で控えていたリッカは「……う」と言葉を詰まらせた。
思わず顔を赤くして、コウタから視線を逸らしてしまう。
「……リッカ?」
コウタは困惑しつつも、すでに愛する少女三人と結ばれているおかげなのか、かつての鈍感さもかなり改善されていたため、すぐに気付いた。
「あ、え、リッカ?」
少し動揺しながら彼女の名を呼ぶと、
「か、閣下……」
リッカは赤い顔のまま、ぺこりと頭を下げた。
「その、今宵は、私となります。な、何卒、よろしくお願いいたします」
か細い声でそう告げた。コウタは「え、あ、うん」と頷いた。
メルティア、リノ、リーゼは遠い目をした。
エルは、かつて自分の騎士だったリッカを見つめて優しく微笑んでいた。
アヤメは不満そうだ。「むむ、なのです」と呻いている。実はジャンケンの結果、彼女の順番は最後になっているのである。
ちなみに、アイリはどう考えても自分だけはまだまだ先のことなので気にもしていない様子だ。テーブル席で紅茶を楽しんでいる。
「……まあ、お前ってオレっちよりも大変だよな」
と、ジェイクが何とも言えない表情を見せた。
自分は愛する人は一人でよい派だが、愛の形とは人それぞれだ。
重要なのは互いに同じ想いであること。強い覚悟を決めていることだ。
それが確かであるのならば、外野が口出しすべきことではないと思っていた。それがジェイクの考え方だった。
「何にせよ、実績が欲しいのはオレっちもコウタも一緒だな」
「う、うん。そうだね」
コウタは頷く。まだ動揺しているが、大きく息を吐き出して、
「その最初の一歩じゃないけど、今回の件は解決したい。そもそも魔獣使いなんてエリーズの騎士候補生としても見過ごせないし」
そう告げた。コウタの言葉の前に全員が沈黙する。
ジェイクは素直な共感で頷くが、他のメンバー――悪竜の花嫁たちは複雑だ。
なにせ、あの盗賊団の女頭目はコウタの仇の縁者なのだから。魔獣使いに至っては血の繋がりまであると聞く。
話せば、コウタの精神に大きな影響を与えるのは間違いない。
それが分かるだけに、メルティアたちは全員沈黙してしまった。
「相手の規模。能力。その素性」
しかし、そんな中、コウタは願うのだった。
「出来るだけ情報は共有したいんだ。知っていることがあるなら教えて欲しい」
――と。




