第四章 サザンへの帰還④
夜。
ザーラは一人、街中を歩いていた。
サザンの街だ。夜の繁華街であるため、騒々しい。
仕事終わりの酔っぱらいも多かった。
(相も変わらない忙しい街だね)
ザーラは苦笑を浮かべた。
この騒々しさは街の活気の証だ。
この都市の領主は、噂通り優秀なようだ。
(さて。どうしたもんかね)
ザーラは歩きながら考える。
仲間たちは分散して宿に待機させてある。わざわざ集まってもらったというのに、想定外の事態に待機させてしまっている状況だ。
ザーラはフェイとマイアと共に行動しているのだが、今は一人だ。
新たな策を考えるために、こうして散策しているのだ。
歩いていると、意外といいアイディアが出るかと思ったからだ。
しかし、
(ああ~、あたしはやっぱ脳筋だね)
ザーラは深く嘆息した。
何のアイディアも出てこない。リーゼは残念ながら、もう手を出すのは控えた方がいいだろう。怪物の尾を踏むのは悪手だ。
ならば、もう一人の標的である白金仮面と接触しようかと考え、かの人物が活動拠点にしているという噂のサザンに来てみたが、それも直感任せの判断だった。
(貴族の令嬢。正義の味方。それが必要な駒だ)
ザーラは双眸を細めた。
まずは王都パドロに住む有力貴族の令嬢を駒とする。
見目麗しいことは前提だが、優秀な令嬢ならばなお良しだ。家督を継ぐ令息でなく、令嬢に拘るのは女にしか出来ない手段もあるからだ。
――そう。古来より、『傾国』とは女にのみ与えられる名前だった。
(誰からも愛される『令嬢』。そんなご令嬢の危機を救う『正義の味方』)
正義の味方に関しては、ガワだけで良かった。
ザーラが被るガワとしてだ。
その点、白金仮面は申し分なかった。
正体不明の正義の味方。世間では男性と思われているようだが、実際のところ、性別は不明だ。女であっても不思議ではない。
そしてその実績。ザーラはそのすべてを奪うつもりだった。
(大衆に明かされる正体。そんであたしは騎士となる)
その後は、徐々に駒を増やしていけばいい。特に優秀な騎士たちをだ。
同時に令嬢には王を落とさせる。そのための美貌だ。そこはフェイの薬もある。それほど時間はかからないだろう。落とした王には悪逆を尽くさせるつもりだった。
そうして数年後。
ザーラが騎士として悪王を討つ。王権の簒奪だ。
しかし、ザーラはエリーズ国の王になるつもりはない。
戦死を装い、この地を去るつもりだった。
尽力してくれた令嬢。
エリスを筆頭にした優秀な騎士たち。
そして一国家の莫大な財力。
それを悪逆の王を討つ戦いの裏で奪うつもりだった。
国を奪うのではない。土地と民以外の国力のみをすべて強奪する。
それがザーラの考える国盗りだった。
(そん時、あたしの兵団は一国にも匹敵する。そしたら)
夜の街を歩きながら、ザーラは双眸を細めた。
――きっと、レオスも認めてくれる。
その時こそ、再び、彼に会えるはずだった。
(……あたしも大概狂っているね)
苦笑いを浮かべる。
国盗りをすれば、何百人、何千人という犠牲が出るはずだ。
だというのに、その首謀者にあるのは一人の男への想いだけだ。
それはもはや恋でも愛でもない。妄執であると自分でも自覚している。
だからこそ。
(あたしはもう止まれないのさ)
ザーラは人通りの少ない路地裏に移動した。
騒がしい雰囲気から一転、寂寥とした路地が視界に映る。
ザーラはその奥に進み、誰もいなくなったのを確認してから、
「マイア」
腹心の暗殺者の名を呼んだ。
すると、
「……何?」
路地の奥、暗い影の中から声が返ってくる。姿を現したのはマイアだ。
別に気配を感じていた訳ではない。
ただ、マイアは後に付いてきていると思っていた。
「この街に白金仮面がいるはずだ。探し出してくれるかい?」
ザーラは言う。
「リーゼは諦めたけど、あいつのガワの方はやっぱ欲しいからね。けど、あれはかなりの強者だ。いきなり暗殺はしなくていい。居場所を探っておくれ。それと得られる情報は出来るだけ欲しい。あいつの風貌はフェイからもう聞いてるだろ?」
「……ええ。主要人物の風貌は兵団では共有されているわ」
淡々とした声でマイアは返答する。
「三日欲しい。その男を見つけてくるわ」
「OKさ。頼むよ。けど、この街には今、《水妖星》ちゃんと、怪物坊やもいるようだ。そっちにも充分気を付けるんだよ」
「ええ。分かっている」
マイアは頷き、すうっと路地裏の奥へと消えた。
「さてさて」
ザーラは腰に手を当てて、夜空を見上げた。
「マイアも頑張ってくれている。けど、要になる『令嬢』はまだ候補もいねえ。どっかに落ちてないかねえ。血筋と美貌を兼ね揃えて令嬢さんが」




