第四章 サザンへの帰還②
ベン=ロッソの用件とは、コウタたちを伯爵邸に招待することだった。
宿の外には、わざわざ馬車まで二台用意されてあった。
コウタにしてみれば逃げ出したい気分なのだが、流石に伯爵の招待を理由もなしに無下にする訳にもいかない。
コウタたち一行は馬車に乗り込んだ。
メルティアは着装型鎧機兵を装着し、ゴーレムたちも同行している。ボエトロンだけは馬舎で留守番することになったが、彼以外は全員同行だ。
二台の馬車はサザンの街の中を進む。
やややって大きな館に到着した。大きな鉄門が開かれ、庭園の中へと入る。石造りの道を進み、馬車は館の前で停止した。
ベンの案内で、コウタたちは馬車から降りた。
さらに案内されて館の中へと入る。そこは大きな階段へと続くエントランスだった。
すると、
「おお。よく来られた」
階段から降りてくる人物がいた。
その姿では意外と懐かしい人物。しかしながら昨日までは一緒にいた人物だ。
貴族服を着た、才気煥発で知られる美形の青年。
サザン伯爵その人だった。
「急な招待失礼した。リーゼさま。メルティアさま。お久しく。そしてコウタ=ヒラサカ君と友人たちも」
サザン伯爵――ハワード=サザンは階段を降りると、恭しく一礼した。
「ようこそ当家へ。このサザンが歓迎いたします。皆さま方」
そう告げた。
――十五分後。
コウタたちは食堂に通されていた。
目の前には豪勢な料理が置かれていた。人間ではないゴーレムたちや、着装型鎧機兵を装着したメルティアも人前では食事は出来ない――全く出来ない訳ではないが、それをすると周りにドン引きされる――のだが、話が気になり、同行していた。
「大変だったようだね」
同じく席に着くハワードは、コウタたちに話しかける。
「盗賊団に襲われたとか。君たちのことは自警団から報告を受けたよ」
「……いや。その……」
コウタは少し声を詰まらせた。
他人事のように言っているが、ハワードも当事者だ。
しかし、その演技を指摘してもとぼけられるか、気まずくなるだけだ。
「……はい」
コウタはハワードに話を合わせることにした。
「撃退は出来たのですが、ところで盗賊たちは全員捕縛できたのでしょうか?」
「ああ。それは問題なかったそうだよ」
ハワードは頷いた。
「アジトの牢にいた盗賊は全員捕縛した。君たちに報奨金を出すように指示しておいた。近日中には報奨金も手に入るはずだ。もちろん、君たちの活躍は王都の騎士学校や騎士団にも伝わるだろう」
「……おお。ありがとうございます」
と、これにはジェイクが頭を下げた。
少しでも早く将来の嫁を迎えるため、立身出世を目指しているからだ。
「いやはや素晴らしい活躍だ。私も君たちの先輩として誇らしいよ。今日は君たちの武勇伝を聞きたく招待した訳だ」
そこでリーゼとメルティアの方を見やり、
「もちろん、リーゼさまとメルティアさまのご無事なお姿も確認したくありましたが」
「恐れ入りますわ。サザン伯爵さま」リーゼが微笑んだ。
「ご心配をおかけしたようで申し訳ありません」
「いえ。悪いのは盗賊です。そして、それをみすみす放置した私に責任があります」
ハワードは頭を下げた。
「本当に申し訳ない。盗賊どもを排除していただき、領主として感謝します」
「顔をお上げくださいまし。伯爵さま」
リーゼがかぶりを振って告げる。
「今は実質休学してますが、わたくしたちの多くは騎士学校の生徒です。ならば盗賊の排除は当然の義務ですわ。それよりも」
リーゼがポンと手を叩いた。
「今回の一件の詳細をお聞きしたいとか。そのお話をしてもよろしいでしょうか?」
ある意味、本題に入る。
コウタはもちろん、ほぼ全員が表情を引き締めた。ハワードが、わざわざこうした場を設けたのは、表の顔でもこの一件に参入するためだと全員が察していた。
「おお、それは嬉しいですね」
ハワードは破顔した。本当に好青年の笑みだ。
しかし、
(これは厄介そうな相手じゃな)
(胡散臭い、です)
(こいつ、なんか嫌だな)
(閣下が嫌がられたのも何となく分かりました)
と、初対面であるリノ、アヤメ、エル、リッカはそれぞれ同じような印象を受けた。
ともあれ、
「では、ボクから話させてもらいます」
コウタが話を切り出した。
もともとハワードも、裏の顔の時にすべて知っている内容だ。今更ではあるが、折角なので情報を整理しつつ、首領である女盗賊がまだ捕まっていないことや、魔獣使いの話も含めて包み隠さずに話した。
ハワードは「……むう」とあごに手をやって唸った。
「魔獣使いとはいささか信じられない話だが……」
一拍おいて、
「君たちが嘘をつくとも思えない。早速、捜査を始めよう」
「ありがとうございます」
コウタは頭を下げた。
これでサザン伯爵家の後ろ盾を得たということだ。
気まずさは拭えないが、事態が事態だ。使える権力は使った方がいい。
ハワード自身も人手が必要だと思ったからこそ、表の姿を現したのだと察していた。
ただ、コウタはまだ女盗賊たちが怨敵の縁者であることまでは知らない。
話を聞きながら、メルティアたちも内心で眉をひそめていた。
彼女たちも、こればかりはどう告げるべきか悩んでいた。
――と。
「……旦那さま」
そこにベン執事が現れた。
ハワードに近づき、そっと耳打ちする。
朗報なのか、ハワードは「おお!」と瞳を輝かせた。
そして、
「実は君たちに紹介したい人物がいる」
ハワードはそう切り出した。
「私の愛する婚約者。彼女が君たちに挨拶をしたいそうだ」
そう告げるのであった。




