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僕の小さな救出作戦  作者: 桜 舞華
極めて平凡で概ね平和
7/16

母親の心配

 とるとるとるるるる…


 家に一つしかない(当たり前だ)固定電話が、そんな感じに鳴り響く。多分違う音だろうが、俺にはとるとるとるるるる、としか聞こえない。

 え?耳がおかしいんじゃないか?


 いや、大丈夫です。お気になさらず。はい。


 がちゃんこ。口で効果音をつけて、受話器を持ち上げた。


「もしもし?アキ?」


 懐かしい声、と言っても2日ぶりの声。あ、割と最近に聞いてたわ。

 大事な身内、母の声。


「もしもし?うんうん、オレオレ」


 そう、オレオレ詐欺。うそうそ。

 この家に掛けてくる時点で俺以外あり得ないよな。他のやつが電話出てくるのはおかしいだろ。

 急にかかって来た電話に、ナゴは驚いてどこかへ走って行ったが、数秒もせずに戻って来ていた。

 にゃんだよびっくりさせるにゃよ、と誰に対してかよくわからない文句をしきりに呟いていた。


「あぁ、アキ、良かったわ。家にいたのね」

「ん?うん」


 良かった、って何が。

 俺の家だし。俺いちゃダメなの?


「てっきり、もう大学に行ったと思ってたから母さんびっくり」


 ……ん?大学?

 固定電話の、画面を見た。時間が右上に表示された画面。




     『11:27』




 あぁ、もうすぐお昼なのかぁー。道理でお腹空いたと思ったわー……。



 じゃなく!

 そうだよ、俺ナゴに出会った時外にいたよな。あれ、目的があって外出たんだったよな。じゃなければ、幼馴染のように引きこもりたい。俺もあいらぶまいほーむ、っていう人種だから。

 発音が悪いのは気にしない。中・高と、英語の先生には発音の悪さに呆れられてきた。と、そんなことはどうでもいい。


 閑話休題。


 今日は大学の日だったのだ。

 いや、俺は基本平日は普通に大学行ってるわけだから、今日『は』じゃない。


 でもまぁ。仕方ない……。

 出席日数は幸いにも今のところ困ってはいないし、まぁ、今日の講義に出なかったところで大きな問題は恐らくないだろう。多分。今更行っても無駄足だしな。


「……で、どーしたの?母さん」

「いやね、そろそろあんたも里帰りしたら?と思ってね」

「里帰り?」

「そうよ。だってあんた、そっち行ってもう半年我が家に帰ってきてないでしょう」


 ああー。そういえば、そうだったかなぁ。


「ハルもさみしがってるわよ。勿論、ふゆきさんもね」


 ハル……はるは、俺の妹。

 ふゆき……冬樹ふゆきは、俺の父。

 ちなみに、俺の母の名前は夏果なつかという。春夏秋冬。季節をコンプリートだぜ。

 という冗談はさて置いて、何故か我が家のメンバーは揃いも揃って季節の名前だった。


 どうして?と、幼心に聞いてみたら父はドヤ顔で面白いだろ?と言ってきた。

 別に面白くはない。


「で、いつ帰ってくるの?」


 母のなかで、俺が帰るのは決定事項らしい。


「……じゃあ、近々帰るよ」


 少し考えた末にそう言った。

 流石に、そろそろ帰った方がいいかとも思うし。


「じゃあ、楽しみに待ってるわね。あぁ、そうそう。アキ」

「ん?」


 もう電話を切っても良いのかと思っていたのに、母さんが引き止める。


「最近、変わったことはない?大丈夫?」

「変わったこと……」


 ナゴに視線を向けた。

 ナゴは横目で俺を見つつ、にゃぁーんとあくびしてた。呑気なやつめ。

 さっきまで真剣に話していたのが嘘のようだ。嘘なのか?

 嘘だったらいいなぁ。

 大事な人が死ぬなんて、縁起でもない。


「アキ、別におれにょことを言うにょは構わにゃいが、変人呼ばわりされるにょもアキにょ自由だぞ。おれは人前では喋らにゃいからにゃ」


 ……電話の向こうには聞こえない声でそう言われた。

 ナゴは言うだけ言って、興味なさそうにふいっとあちらを向いてしまう。


『母さん、実は喋る猫が。うんぬんかんぬん』


 これ喋ったら絶対、母さんは俺の頭を心配するだろう。

 親とは子を心配するものだからな。


 ただし、頭だ。今回に至っては。

 そんな心配嬉しくない。


「大丈夫だよ、母さん」

「そう?それなら良いのよ。じゃあね」

「うん」


 母さんはそれで電話を切った。かちんっ、と俺も受話器を下ろす。

 若干、俺の中での効果音が古い。

 気のせいか。


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