エミカとナゴ
「ねぇー。アキ。私と、付き合おうよ」
今まで恋愛対象として見たことのないエミカからの誘い。
俺の右腕をがっしりと掴み、獲物は逃がさないとでも言うようにしっかりとしがみついてる。
「なんで急にそんな発想になったんだ?」
お前も俺と同じく、俺を恋愛対象と見ていないはずだが。
「かーさんからの仕送りがなくなっても、アキが私にお金をくれるなら問題ないかなーと」
えへへ、と笑ってる。
「お前は俺から金を搾取するのか」
俺げんなり。
「搾取だなんて人聞きが悪いなー。ただちょっとお金を恵んでくだされば良いですよ」
「良いですよ、じゃねーし」
「あれ?アキ、あんなところにあんな建物ありました?」
「……ん?あー、あれね。3ヶ月前に出来上がったスーパー」
3ヶ月前。丁度エミカがひきこもり症候群真っ只中だった時だな。あぁ、だからわからなかったのか。
ひきこもりも大変なことだ。
「ねぇアキ。アキって、猫飼ってたっけ?」
ひこもりは最近の出来事をあんまり知らないよなぁ……と言う問題ではなかった。
ナゴが、ごろにゃ〜んと大根役者並みに平凡な猫を装いながら、エミカの足に擦り寄っている。
待てナゴ。何してる。
「うーん、えー……あー、うん。多分飼ってる」
「多分、なの?」
「俺の意思じゃねえしな」
何だか理解できていないようだった。
そこら辺は深く突っ込まないで欲しい。
「名前は?」
しゃがんで、ナゴの顎のあたりを撫でながら聞いてくる。ナゴは気持ち良さそうに目を細め、ゴロゴロと鳴く。
あ、猫っぽい。
「ナゴだよ」
「……へぇー。ナゴちゃんか」
「ちゃんかどうかは知らないけどな。多分オスだが」
あの喋り方でメスはないと思う。ないと信じたい。
「よろしくね、ナゴちゃん。私はエミカ。澤原笑香。アキの幼馴染だよ」
優しい笑顔で語りかける。ナゴは人間の言葉を理解するけど、はたから見たら猫に喋りかける女子大生ってどうなんだろうか。
「今日のお出掛けは、ナゴちゃんも着いて来るの?」
「おー。残念ながらなー」
本当、家で留守番してくれてて良かったんだけど。
「やった」
そういやこいつ、小動物とか好きだったかな。久々の外出で顔が強張ってたけど、ナゴのおかげで幾分か緩んだ。
まぁ……ナゴに感謝しておくか。
不本意だが。




