ひきこもり、家を出る
エミカの家の前。
カチッと、インターフォンの硬くなったボタンを押した。しばらく押されていないかのように、インターフォンのボタンが硬い。
なぜだ。ここは俺のアパートよりも新しいアパートだぞ。
かちっ。カチカチカチカチ。連打連打。
気分は古いゲーム機で遊ぶ小学生。
おかしい。音が鳴らない。
俺の家のインターフォンは、押したらキーンコーンと鳴るんだぞ。この家はあれか。アナログか。
自分でキーンコーンと言わなければならないのか。それをする勇気は俺にはない。
仕方なく、コンコンっと、扉を叩いた。俺の拳が扉にぶつかっては音を鳴らす。中にちゃんと聞こえているだろうか。
しばらくして、ようやくエミカが出てきた。
「あきいいい!!」
泣きそうな顔だった。やめろ、ひっつくな。凹凸のない体を押し付けてくる。やめろ。虚しい。
「……って、エミカ!」
「何?」
「それ寝間着じゃねーか!着替えろよ!」
行く気ねーだろ!絶対!
「ほへ?」
ほへ?じゃねーよ!
ピンクの、上下寝巻き。童顔なエミカにはよくにあっていた。でも、今は似合ってるかどうかの問題ではない。
「早く着替えてこいよ」
「はぁい」
気の抜けた返事。
大丈夫かこいつ。
数十分して……え⁉︎もう数十分⁉︎
「遅いだろう!」
「おそいにゃー」
「うぉぁっ⁉︎ナゴ、いたのか」
一緒に家を出たのは知っていた。
だが、どこにいるかはわからなかった。まさか、こんな近くにいるとは。真横に仰け反ってナゴから距離を取る。
「にゃぁーん……。そんにゃにおどろかにゃくても……」
まったりと欠伸を漏らして、ナゴが前足を伸ばす。猫が猫背ってことはないんだろうな ……逆側に背骨が湾曲してる。
猫って体柔らかそうだな。
「ナゴ、どこまで着いて来るんだ?」
「……デートがいいのかにゃ?」
「違うわ!」
エミカとのお出掛けは、断じてデートじゃない。なので、その点においてはナゴが着いて来ることになんら問題はない!そう!決して!
「じゃあにゃにが問題にゃんだ」
「喋る猫が隣にいることだ!」
「にゃん。にゃるほどにゃー。じゃあ、しばらく喋らにゃい。それでいいかにゃ?」
「……まぁ、はい」
……あれ?そういう問題なのか?
「お待たせ〜」
ようやく、憂鬱そうな顔をしたエミカが出てきた。憂鬱そう……うわ、名残惜しそうに家を見てる。震える足で一歩前に出た。
お前は、初めて巣を出る小動物か!




