1 旅立ち その④
今日もいつものように、家の外壁に背を預けて、丘から村を見下ろしていた。麗らかな日差しは、睡眠不足のガジュを眠りの世界へ誘う。昨夜は眠れなかった。
この日差しのように穏やかな日々が、この先も続くのものだと思っていた。しかし、ガジュを巡って、不穏な空気が漂い始めているらしい。
これから僕はどうなるのか? ウルワシカとは今後どのように付き合えばいいのか?
悩みを相談できる相手もおらず、一人で悶々と悩んでいる間に、いつしか空は白んで、朝になっていた。
欠伸をすると、丘を登って来るウルワシカの姿が目の端に映った。
「おはよう」
昨日と同じように、ウルワシカが元気な挨拶をする。しかし、その表情はいつもと違って硬い。
昨日、コリンがウルワシカにプロポーズをしたことは、すでに村長から聞いている。ウルワシカがコリンのプロポーズを受け入れたのか、ひどく気になった。しかし、さすがに不躾過ぎて、直球では聞けない。
どう切り出そうか悩んでいると、ウルワシカのほうから質問してきた。
「ガジュは私のことを、どう思ってるの?」
ウルワシカが真っ直ぐにこちらを見ている。
この質問はきっと、昨日コリンがウルワシカにプロポーズをしたことと関係がある。
ウルワシカとの関係を、今以上に発展させたいのであれば、素直にウルワシカが好きだと打ち明ければいい。
若い二人は、今まで互いに好意を言葉にはせず、それを楽しむように時間を共有してきた。ほんの一つのきっかけさえあれば、二人の仲はすぐに進展したはずだ。
昨日、村長の話を聞く前であれば、素直に自分の好意を、ウルワシカに伝えていた。だが、もう今はそうできない。今もっとも優先すべきなのはウルワシカの安全だ。ウルワシカとは、距離を保つ必要がある。
ウルワシカを傷つけぬように、ガジュは慎重に言葉を探す。その沈黙を、ウルワシカは誤解したらしい。
「ガジュは私が嫌いなの?」
「そんなわけないだろ」
すぐにウルワシカの言葉を否定する。そんな風に思われるのは心外だ。
ウルワシカは唇を噛んだ後、決意して口を開いた。
「じゃあ、ガジュは私が好き?」
もう逃げられない。昨晩から悩んでいたことについて、結論を出さねばならない。
「僕は……」
もし、ここで正直にウルワシカを好きだと打ち明けたら、一体どうなるのだろう? ウルワシカはコリンのプロポーズを断るのだろうか?
ウルワシカの幸せを願うのであれば、ウルワシカはコリンと結婚すべきだ。
「……ウルワシカが好きだよ」
ウルワシカの目に喜びが宿る。胸が引き裂かれるような痛みを堪えて、その喜びをガジュは打ち消す。
「でも、それは恋愛感情の好きじゃない。人として好きなんだ」
みるみるうちにウルワシカの目に涙が溜まっていく。ウルワシカはなにも言わず、ガジュのもとを走り去った。
これでよかったんだ。
何度も何度も自分に言い聞かせる。しかし、胸を刺す痛みは消えなかった。




