第一章5 選ばれなかった国③
その夜。
中国全土で激しい議論が始まった。
SNSでは、
「なぜ日本なのか」
「中国の歴史を無視している」
「これは日本への肩入れだ」
という怒りの声が溢れた。
一方で、
「超越者は日本人を特別扱いしないと言っている」
「天皇は日本政府の代表ではない」
「そもそも超越者に中国政府が選択を迫れるのか」
という意見も現れた。
政府は混乱した。
最も困ったのは、
「超越者に抗議する」という行為そのものが意味を持つのか
ということだった。
中国政府は日本政府には抗議できる。
アメリカにも抗議できる。
ロシアにも抗議できる。
しかし今回は違う。
相手は国家ではない。
軍隊でもない。
大使館もない。
領土もない。
そして、
攻撃できない。
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翌朝。
人民大会堂。
習平平は再び演壇に立った。
「中国は、自らの歴史と主権を守る」
その言葉に拍手が起きた。
「我々は、いかなる国家にも従属しない」
さらに拍手。
そして、
「超越者が日本国天皇を代行者に選んだことについて、中国は重大な関心を持っている」
拍手は止まった。
誰もが次の言葉を待った。
習は慎重に言った。
「しかし、中国は冷静でなければならない」
その瞬間、誰かの頭の中に声が響いた。
『その判断は正しい』
習の顔が強張った。
超越者は続けた。
『怒ることは自由だ』
『反対することも自由だ』
『私を批判することも自由だ』
『ただし、私はあなたたちの反応も観察している』
習はゆっくりと拳を握った。
中国という巨大国家が、
初めて自分たちでは決められない問題を前にしていた。
しかもその問題の中心には、
数千年の歴史を持つ中国でも、
世界最強の軍事力を持つアメリカでもなく、
東の島国、日本の天皇がいた。
その事実を、
中国共産党は受け入れなければならなかった。
だが、まだ誰も知らなかった。
これは中国にとって、
「日本に負けた」という話ではなかった。
もっと根本的な問題だった。
中国も、アメリカも、ロシアも、インドも、そして日本さえも。
これからは全ての国家が、
「人類より上位の存在が存在する世界」
で生きなければならない。
そしてその存在は、
人類の誰よりも強いのに、
人類の誰よりも政治から距離を置こうとしていた。




