第一章4 選ばれなかった国②
数時間後。
中国全土の人々が同じ声を聞いた。
政府はテレビ放送を通じて、
「国民は冷静に行動してください」
と繰り返した。
しかし冷静になれる人間は少なかった。
北京の街では、人々がスマートフォンを握りしめている。
微博には数百万件の投稿が殺到した。
「宇宙人なのか?」
「神なのか?」
「アメリカの新兵器では?」
「中国の秘密兵器では?」
そして、
「政府は何を隠している?」
という言葉が急速に広がった。
しかし、政府自身が何も知らなかった。
その事実が、さらに恐怖を増幅させた。
三日後。国連にて
超越者は宣言した。
『私は人類を支配しない』
『あなたたちには、私について質問する権利がある』
『私の判断について反対することも自由だ』
中国政府は慎重に分析した。
これは重要だった。
超越者は絶対的な力を持っている。
しかし、政治そのものを奪うつもりはない。
それならば、中国も国家として生き残れる。
そう考えた者もいた。
七日後。
習平平は中央政治局会議で言った。
「我々は冷静に対応する」
誰も反論しなかった。
「中国は世界最大級の国家だ。人口も経済力も軍事力もある。我々は――」
そのとき。
超越者の声が響いた。
『代行者を指名する』
全員が固まった。
習が顔を上げた。
「誰だ?」
超越者は答えた。
『日本国天皇』
一瞬。
誰も理解できなかった。
部屋が完全に静まり返った。
習の表情が変わった。
「……日本?」
『そうだ』
「なぜだ」
『地球上に現在まで続く王統の中で、最も長い歴史を持つ王だからだ』
習は立った。
「待て」
声が震えていた。
「中国には数千年の歴史がある」
『知っている』
「中国文明には長い歴史がある」
『知っている』
「それなのに、なぜ日本の天皇なのだ?」
『あなたの質問は「中国に長い歴史があるのに、なぜ天皇なのか」だな』
「そうだ」
『私は中国文明を否定していない』
『中国人を否定していない』
『中国の歴史を否定していない』
『私は、現在まで連続して存在している王統という基準で選んだ』
沈黙。
習は拳を握った。
「……日本の天皇を、地球人類の代行者にするというのか?」
『そうだ』
その瞬間。
会議室の空気が爆発した。
「受け入れられない!」
「なぜ日本なのだ!」
「これは中国に対する侮辱だ!」
「日本が我々より上だということなのか!」
幹部たちの声が飛び交う。
数秒後、習が机を叩いた。
「静かに!」
部屋が静まった。
習は超越者に向かって言った。
「中国は日本の下に入るつもりはない」
『私は中国に日本の下に入れとは言っていない』
「しかし日本の天皇を代行者に選んだ!」
『そうだ』
「それは日本を特別扱いするということではないのか!」
『違う』
『日本人だから選んだのではない』
『天皇だから選んだ』
「同じことだ!」
『違う』
声は冷静だった。
『私は日本国民に特別な権利を与えない』
『中国国民にも特別な権利を与えない』
『私は人類の代行者として天皇を選んだ』
『日本政府が私の政府になるわけでもない』
『日本軍が私の軍隊になるわけでもない』
『日本が世界を支配するわけでもない』
しかし習は納得しなかった。
「それでも、世界の人間がどう見るか考えたことがあるのか?」
『ある』
「中国人はどう思う?」
『怒るだろう』
「日本人は?」
『喜ぶ者もいるだろう。恐れる者もいるだろう』
「アメリカ人は?」
『様々だろう』
「ならば、なぜ?」
少しだけ間があった。
『私は人類を民族別に代表させようとしているのではない』
『私自身が最も長い連続性を持つ王統を持つ者を選んだ』
『私の選択、それだけだ』




