第一章3 選ばれなかった国①
北京。
午前9時17分。
中南海の一室で、電話が鳴った。
一度。
二度。
三度。
眠っていた男が目を覚ました。
「何だ」
習平平は電話を取った。
相手は国家安全部門の責任者だった。
「主席。緊急事態です」
「何が起きた?」
「……説明ができません」
習は眉をひそめた。
「説明できない?」
「はい」
「アメリカか?」
「違います」
「台湾か?」
「違います」
「ロシア?」
「違います」
「では何だ」
電話の向こうで、男が息を呑んだ。
「全世界で……同じ声が聞こえています」
習は黙った。
「何の声だ?」
「分かりません」
その瞬間だった。
『聞こえているなら、聞いてほしい』
習の頭の中に声が響いた。
電話の向こうからも、
「主席……今、聞こえましたか?」
「……ああ」
「私にも聞こえました」
二人の間に沈黙が落ちた。
習はベッドから立ち上がった。
「すぐに緊急会議を開け」
午前10時。
中国共産党中央政治局の幹部が次々と集められた。
誰もが険しい顔をしていた。
巨大なスクリーンには世界各地の映像が並んでいる。
北京。
上海。
香港。
ニューヨーク。
東京。
モスクワ。
ロンドン。
どこも同じだった。
人々が空を見上げている。
しかし、空には何もない。
「宇宙からの攻撃では?」
「衛星では検出できません」
「電磁兵器?」
「確認できません」
「サイバー攻撃?」
「中国国内だけなら可能性があります。しかし全世界で同時に発生しています」
「では何だ?」
誰も答えない。
一人の幹部が震える声で言った。
「……神では?」
別の幹部が睨みつけた。
「科学的根拠がありません」
「では、科学的に説明してください」
「……」
沈黙。
習平平は腕を組んだ。
「アメリカは?」
「同じ状況です」
「軍は?」
「通常兵器による攻撃対象を確認できません」
「核戦力は?」
「正常です」
その瞬間。
部屋の照明が消えた。
スクリーンがすべて黒くなった。
そして、
『あなたたちの兵器は私には届かない』
声がした。
誰も動かなかった。
『私はあなたたちの敵ではない』
習が立ち上がった。
「では、何者だ」
『観察者だ』
「何を観察する?」
『人類を』
習はしばらく沈黙した。
そして尋ねた。
「我々に何を要求する?」
『何も』
その答えが、一番恐ろしかった。




