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超越者――戦争の終わる日  作者: 4ランクは下の人間
超越者 ― 第一章 超大国編

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第一章1 大統領には何もできなかった①

最初に異変に気づいたのは、軍人だった。


午後18時


アメリカ・コロラド州。


地下の軍事施設で、夜勤中の通信士が突然ヘッドセットを外した。


「……何だ?」


隣の兵士が振り返る。


「どうした?」


通信士は答えなかった。


数秒間、何もない空間を見つめる。


そして、ゆっくり言った。


「今……誰かが話しかけてきた」


「通信回線か?」


「違う」


「じゃあ何だ?」


通信士は自分の頭を指差した。


「ここだ」



同じ頃。


北京。


モスクワ。


ロンドン。


パリ。


ニューデリー。


東京。


エルサレム。


リヤド。


テヘラン。


ブラジリア。


ヨハネスブルグ。


世界中で、同じ現象が起きていた。


人間の脳に、突然「言葉」が届く。


声ではない。


耳から聞こえる音ではない。


頭の中に直接、意味が流れ込んでくる。


そして、その内容は全員同じだった。


『私は人類を観察している』


それだけだった。



その数秒後。


ワシントンD.C.のホワイトハウス。


ホワイトハウスには、三十分もしないうちに報告が届いた。


「大統領、複数の軍関係者が同じ現象を報告しています」


「幻覚か?」


「最初はそう判断しました」


「今は?」


情報担当者が資料を差し出す。


「民間人にも発生しています」


大統領は資料を見る。


年齢も。


性別も。


人種も。


職業も。


何も共通していない。


「薬物は?」


「否定的です」


「集団催眠?」


「説明できません」


「電磁波?」


「該当するものがありません」


大統領は眉をひそめた。


「では、何だ?」


誰も答えられなかった。


大統領の頭の中に、声が響いた。


『はじめまして。聞こえているなら、聞いてほしい』


大統領の動きが止まった。


側近を見る。


側近も大統領を見ている。


「……今、何か聞こえたか?」


「はい」


「お前も?」


「はい」


その瞬間、大統領の顔から血の気が引いた。


*----+


19時


アメリカ合衆国大統領は地下危機管理施設へ移動していた。


そこには国防長官、統合参謀本部議長、CIA長官、NSA長官、国土安全保障長官が集まっていた。


全員が深刻な顔をしている。


「攻撃元は?」


「ありません」


国防長官が答えた。


「衛星画像は?」


「異常なし」


「サイバー攻撃?」


「可能性は極めて低い」


「通信を切れ」


「すでに切っています」


「じゃあ、なぜ全員が同じ声を聞いている?」


沈黙。


誰も答えられなかった。


CIA長官が口を開いた。


「大統領。最悪の場合を想定する必要があります」


「最悪?」


「未知の兵器です」


大統領は画面を睨んだ。


「兵器なら、どこから来た?」


「分かりません」


「衛星に映らない?」


「はい」


「レーダーにも?」


「はい」


「赤外線にも?」


「はい」


「電波にも?」


「はい」


大統領は椅子から立ち上がった。


「じゃあ、何を撃てばいい?」


誰も答えなかった。


その瞬間。


『撃つ必要はない』


全員の頭の中に声が響いた。


部屋が凍りついた。


大統領がゆっくりと天井を見上げた。


「……そこにいるのか?」


『いる』


「どこだ?」


『あなたたちの世界の外側だ』


大統領は拳を握った。


「何が目的だ」


『観察だ』


「アメリカを攻撃するのか?」


『しない』


「アメリカを支配するのか?」


『しない』


「では何がしたい?」


数秒の沈黙。


『あなたたちが何をするのかを見たい』


大統領は苛立った。


「ふざけるな!」


側近が驚いて大統領を見る。


しかし声は怒らなかった。


『怒るのは自由だ』


『私を嫌うことも自由だ』


『私を批判することも自由だ』


『ただし、私たちはあなたたちを観察している』


その瞬間、大統領は理解した。


これは外交ではない。


外交なら相手の大使館がある。


軍事なら敵基地がある。


テロなら犯人がいる。


だが、今回は違う。


交渉相手が、どこにもいない。


*----+


20時



大統領は軍部に命令した。


「全世界の核戦力を確認しろ」


「大統領……」


「確認だけだ!」


「はい」


数分後。


報告が届いた。


「異常ありません」


「ならば戦略爆撃機を――」


その瞬間、司令部の画面が一斉に黒くなった。


大統領が振り返る。


「何をした?」


『何もしていない』


「嘘だ!」


『あなたたちが自動兵器を起動しようとしたので、停止させただけだ』


「……停止?」


『あなたたちの兵器を破壊することもできる』


大統領の顔が固まった。


『だが、今はしない』


沈黙。


統合参謀本部議長が小さな声で言った。


「大統領……」


「何だ」


「我々には……対抗手段がありません」


その言葉が、部屋の空気を変えた。


アメリカ軍は、世界で最も強力な軍隊だった。


しかし今、世界最強の軍隊を率いる男が初めて、


「撃つことも、追うことも、捕まえることもできない」


相手を前にしていた。


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