第五章1 中国①
北朝鮮崩壊から、半年。
世界は少しずつ新しい秩序に慣れ始めていた。
中国も、ロシアも、韓国も、日本との軍事的衝突を避けていた。
だが、中国政府は諦めてはいなかった。
尖閣諸島をめぐる主張も。
台湾をめぐる主張も。
何一つ撤回していない。
ただ一つ変わったのは、
軍艦を前面に出さなくなったことだった。
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東シナ海
午前五時四十分。
日本の海上保安庁の巡視船が、レーダー上の船影を確認した。
「船籍は?」
「中国籍です」
「軍艦?」
「確認できません」
担当官が画面を見る。
白い船体。
大型。
しかし軍艦ではない。
表示された船籍情報には、
民間漁業会社所属
とある。
「針路は?」
「こちらに向かっています」
「警告を」
通信士がマイクを取った。
「こちらは日本国海上保安庁。貴船は日本の領海に接近しています。針路を変更してください」
しばらくして返答が来た。
「我々は民間漁船である」
「領海への侵入を確認しています。直ちに退去してください」
「我々は日本を攻撃する意思を持っていない」
その返答に、巡視船の艦橋が静かになった。
まるで、最初からそれを言うために来たようだった。
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中国政府
北京。
緊急会議。
海警から報告を受けた担当者が言う。
「日本側から警告を受けています」
「船は?」
「領海内です」
「軍艦ではないな?」
「民間船です」
「乗員は?」
「中国人です」
幹部が尋ねる。
「政府の指示は?」
担当者が一瞬、言葉を選んだ。
「公式には……何もありません」
沈黙。
そして幹部が言った。
「ならば、その船の判断によるものだ」
別の幹部が顔を上げる。
「つまり?」
「民間人の独自行動だ」
誰も口にはしなかった。
しかし、全員が同じことを考えていた。
これは試すための行動だった。
北朝鮮のように軍隊を使えば危険だ。
ならば、
「民間人なら?」
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領海内
巡視船から、再び警告が飛ぶ。
「貴船は日本の領海内に侵入しています。直ちに退去してください」
中国船から返答。
「我々は中国の漁民である」
「退去してください」
「我々には日本を攻撃する意思はない」
「退去してください」
「これは民間人による航行です」
同じ言葉を繰り返す。
日本側も、それ以上強い言葉を使わない。
しかし艦橋にいた全員が分かっていた。
これは単なる漁船の迷走ではない。




