第五章2 中国②
東京
その日の午後。
官邸に報告が入った。
「中国籍の民間船が日本領海に侵入しています」
首相は資料を見る。
「中国政府の関与は?」
「否定しています」
「民間人の独自行動だと?」
「はい」
しばらく沈黙。
「北朝鮮の件を意識していると思うか?」
外務官僚は慎重に答えた。
「……可能性は否定できません」
「超越者への報告は?」
「天皇陛下には、すでに情報をお伝えしています」
首相は目を閉じた。
「そうか」
そして小さく言った。
「あとは、超越者がどう判断するか……か」
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その夜
天皇は静かな部屋にいた。
そして突然、脳に直接、言葉が届いた。
『中国の船が日本の領海に入った』
「はい」
天皇は答えた。
『中国政府は民間人の行動だと主張している』
「そのようです」
しばらく沈黙。
そして、
『私は人間の法律によって判断しているのではない』
天皇は黙って聞いた。
『誰が命令したかではなく、何をしようとしたのかを見る』
天皇の表情が変わった。
「……では、あの船が日本を攻撃する意図を持っていなければ?」
『攻撃とは限らない』
「中国政府が関与していなくても?」
『関係ない』
そして、最後に。
『領海侵犯と私への攻撃は同じではない』
天皇は息を吐いた。
超越者は、北朝鮮のときとは違う判断をした。
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北京
その夜。
中国政府にも、ある情報が届いた。
何も起きていない。
船は動ける。
乗員も動ける。
政府関係者も無事。
軍も停止していない。
会議室にいた幹部たちは、安堵した。
一人が言った。
「……やはり……成功した」
しかし、別の幹部は首を振った。
「違う」
「何が?」
「超越者は、我々の意図を見ている」
部屋が静かになった。
「民間人だから安全だったわけではない」
「では?」
「日本への攻撃ではなかったからだ」
「たしかに。ただこれで希望が出てきた」
「ああ、領土侵犯までは問題なしだ」
中国には確信があった。
領土侵犯を攻撃とするなら北方領土を占拠しているロシアは試練の対象に真っ先になるからである。
「希望が出てきた」
中国には外交での突破口が見えた事に安堵した。




