第四章9 日本⑥
日本の質問時間は終わった。
質問を終えた男は、しばらく呆然としていた。
――民主主義に限界がある。
その言葉が、頭から離れなかった。
失われた30年。
それは、単に経済政策を間違えた結果ではなかった。
失敗しても。
責任が曖昧になり。
時間が経てば、何も残らない。
そして、その仕組みを変えることさえ、同じ民主主義の中で行わなければならなかった。
男は、ふと質問票に目を落とした。
日本政府が、本当に聞きたかった質問。
「……だから、これを聞いたのか」
男は呟いた。
最初から、経済政策の正解を聞くつもりだったわけではない。
失われた30年の原因を、一つに決めたかったわけでもない。
日本政府が知りたかったのは――
なぜ、問題が分かっていたのに、修正できなかったのか。
そして。
なぜ、その仕組みを変えることまで難しいのか。
男は、そこでようやく気づいた。
「……日本政府に、してやられた」
思わず苦笑する。
最初から、ここまで考えていたのだ。
超越者に政治を任せるわけではない。
命令させるわけでもない。
ただ、超越者との対話をきっかけにする。
政治の外側から、政治そのものを見直す。
男は超越者を見た。
超越者は、何も言わない。
ただ、そこにいる。
だが。
その存在だけで、これまで日本になかった選択肢が生まれている。
そして、世界にも、新たな選択肢が生まれようとしている。
自分たちより上の存在がいる。
人間がその存在の視点に立って社会を見つめ直せば、これまで変えられなかったものを変えるきっかけが見つかるかもしれない。
男は質問票を静かに閉じた。
「……なるほど」
それ以上、言葉は出てこなかった。
今回の質問と、超越者の対応をきっかけに。
日本の中では、これまでになかった考えが動き始めていた。
そして、超越者ノ間の外では。
東京の夜が、いつもと変わらず続いていた。




