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超越者――戦争の終わる日  作者: 4ランクは下の人間
第三章 北朝鮮編

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第三章6 試練②

平壌。


午前十一時四十二分。


金正温は、立ったまま動かなかった。


目は開いている。


呼吸もしている。


しかし、指一本動かせない。


声も出せない。


目の前には側近たちがいる。


誰も動いていない。


国務委員会の幹部。


軍の最高幹部。


党の中枢。


全員が同じ状態だった。


まるで時間だけが、彼らの周囲から切り離されたようだった。


そして世界中の人間が、その光景を知ることになる。


超越者の声が響いた。


『これが試練である』


それだけだった。


*----+


午後零時

最初に異変に気づいたのは、平壌の下級官僚だった。


「中央から命令が来ない」


「待てば来る」


「いつまで待つ?」


「分からない」


電話は繋がる。


通信も生きている。


電力も供給されている。


しかし、


命令だけが来ない。


軍部でも同じだった。


「次の指示は?」


「司令部に聞け」


「司令部が応答しない」


「ならば総参謀部へ」


「応答なし」


「国防省は?」


「応答なし」


次々と同じ答えが返ってくる。


*----+


午後一時

韓国政府に緊急報告が入った。


「北朝鮮軍の中央指揮系統が機能していません」


大統領は聞き返した。


「機能していないとは?」


「通信設備は生きています。しかし上層部からの命令がありません」


「クーデターか?」


「確認できません」


「金正温は?」


沈黙。


「確認できません」


部屋の空気が変わった。


誰も口にしなかった。


しかし全員が同じことを考えていた。


超越者の試練だ。


*----+


ワシントン

アメリカ大統領にも報告が入った。


「北朝鮮の指導部が動いていません」


「死んだのか?」


「生命反応はあります」


「では?」


「動かない。意思決定もできないようです」


大統領はしばらく黙っていた。


「軍は?」


「中央指揮系統が麻痺しています」


「核関連施設は?」


担当者が答える。


「現在、監視を強化しています」


大統領は深く息を吐いた。


「……誰も北朝鮮を攻撃するな」


「はい」


「今は何よりも、あの国から何かが飛んでこないようにすることだ」


そこで大統領は気づいた。


アメリカが北朝鮮に対して軍事行動を取ることは簡単ではない。


なぜなら、


超越者が何を考えているのか、誰にも分からない。


北朝鮮は試練を受けた。


しかし、


「では北朝鮮を誰が処理するのか?」


については、超越者は一言も言っていない。


*----+


北京

中国指導部では、さらに深刻な問題が起きていた。


「北朝鮮との連絡が取れない」


「国境は?」


「現時点では大きな異常なし」


「軍は?」


「北朝鮮軍の動向を監視しています」


「難民は?」


「まだ大規模な流入は確認されていません」


習平平は黙っていた。


そして、一人の幹部が言った。


「我々は……北朝鮮を助けるべきでしょうか」


誰もすぐには答えなかった。


「人道支援は必要でしょう」


別の幹部が言う。


「しかし、政治的介入は?」


沈黙。


中国にとって北朝鮮は隣国だった。


同時に、


超越者の試練を受けた最初の国


でもあった。


不用意に動けば、


「中国が超越者の試練に介入した」


と解釈される可能性がある。


誰も、そのリスクを正確には測れなかった。


*----+


日本

東京では、別の議論が始まっていた。


「北朝鮮が事実上、機能停止しています」


総理は報告を聞いていた。


「自衛隊は?」


「警戒態勢を維持しています」


「北朝鮮へ入るのか?」


その問いに、誰も即答しなかった。


そして総理は天皇に関する報告書を見る。


今回の攻撃は、


超越者の代行者である天皇への攻撃


として認定された。


しかし、超越者は日本政府に、


「北朝鮮へ進め」


とは言っていない。


むしろ、


『その後の問題は、人類自身が決めなさい』


そう宣言していた。


総理は言った。


「……つまり、我々自身が決めなければならない」


防衛大臣が頷く。


「はい」


「超越者に答えを聞くことは?」


「可能でしょう」


「しかし?」


「それでは、超越者が人類の政治を決めることになります」


総理は黙った。


それは、この世界で初めての重大な問題だった。


超越者に守られていることと、超越者に統治されることは違う。

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