19/34
第三章5 試練①
『北朝鮮に試練を与える』
その瞬間
金正温の身体が動かなくなった。
「……!」
声も出ない。
側近たちも同じだった。
軍司令部も。
政府高官も。
ミサイル部隊も。
しかし、一般市民には何も起きていない。
超越者は言った。
『これは処刑ではない』
『復讐でもない』
『あなたたちが越えた境界を理解するための試練である』
金正温は必死に目を動かした。
そして初めて理解した。
自分は、
「超越者がどこまで許すか」
を試していた。
しかし本当に試されていたのは、
自分自身だった。
『試練はじきに終わる』
『その後、あなたたちは選べばいい』
『再び境界を越えるか』
『それとも、人類として生きるか』
そして世界は静まり返った。
その日。
北朝鮮は、人類史上初めて超越者の「試練」を受けた国家となった。
そして各国政府は、その日から新しい外交用語を使い始めた。
「北朝鮮事例」
それは軍事史でもなかった。
外交史でもなかった。
宗教史でもなかった。
それは、
人類が初めて超越者の境界線を越え、その結果を経験した事件
として記録されることになる。
そして何より皮肉なことに――
最初にその境界線を確かめようとしたのは、
世界で最も「瀬戸際外交」に慣れていた国だった。




