第二章2 世界情勢②
パリ
フランスでは、政府が国民向け声明を出した。
「国民の皆様、現在確認されている現象による直接的な危険はありません」
しかし、その声明を見ていた女性がテレビの前で笑った。
「直接的な危険はない?」
隣にいた夫が聞く。
「何がおかしい?」
「だって、相手が世界中の人間の頭の中に直接話しかけられるのよ」
夫は黙った。
「それなのに、危険じゃないって?」
二人ともテレビを見る。
画面の中では、専門家が必死に説明していた。
しかし視聴者の誰もが分かっていた。
政府自身も、何も分かっていない。
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ニューデリー
インド政府では、別の問題が起きていた。
宗教指導者たちが一斉に声明を出したのだ。
「神の顕現である」
「いや、神ではない」
「人類より上位の知的存在だ」
「古代から存在していた神話的存在では?」
街では寺院に人が殺到した。
祈る人。
泣く人。
喜ぶ人。
恐れる人。
そして科学者たちは必死に呼びかけた。
「超越者が神であるという証拠はありません」
しかし、それを聞いても人々の感情は収まらなかった。
数千年間、人類は、
「自分たちより上の存在」
を宗教や神話の中で考えてきた。
その存在が、
本当に現れてしまった。
それだけで、人間の精神に与える衝撃は計り知れなかった。
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サウジアラビア
王宮では宗教指導者と政府高官が集まっていた。
「これは神なのか?」
「超越者自身は、自分を神とは言っていません」
「では何なのだ?」
「分かりません」
「人類より上位なのか?」
「本人はそう言っています」
沈黙。
一人の宗教指導者が言った。
「ならば、我々はまず、超越者が何を語るのかを聞くべきでしょう」
別の人物が答えた。
「しかし、超越者が宗教を否定したら?」
誰も答えなかった。
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イスラエル
軍事施設では、別の意味で緊張が走っていた。
「ミサイル防衛は?」
「通常通り」
「地下施設は?」
「問題なし」
「核戦力は?」
「異常なし」
司令官はしばらく考えた。
「では、なぜ全員がこんな顔をしている?」
若い士官が答えた。
「我々が何を持っていても、相手に届かないからです」
司令官は黙った。
それは軍人にとって、最も恐ろしい認識だった。
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ブラジル
リオデジャネイロ。
海岸に数千人が集まっていた。
誰もが空を見ている。
何もない。
しかし、人々は空を見続けていた。
「超越者はどこにいるんだ?」
「分からない」
「宇宙?」
「違うらしい」
「じゃあ神?」
「本人はそう言っていない」
「じゃあ何なんだ?」
誰も答えられない。
そのうち、誰かが歌い始めた。
別の人がそれに合わせる。
恐怖を紛らわせるように、人々は歌った。
世界の反対側でも、
人間は同じように人間だった。
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アフリカ
ナイジェリア。
通信会社の施設では、技術者たちが混乱していた。
「世界中の通信網が正常なのに、全員が同じ声を聞いている」
「通信ではない」
「じゃあ何だ?」
「知らない」
「脳に直接送信している?」
「そんな技術は存在しない」
「人類には、な」
その言葉に全員が黙った。




