ルーナ物語
第八章 黒い羽
冬の朝。
フィーニス魔法学園は白い雪に包まれていた。
中庭。
訓練場。
時計塔。
すべてが雪化粧をまとい、静かな朝を迎えている。
一年一組の教室では、生徒たちが窓の外を眺めていた。
「すごい雪!」
「今日は積もりそうだね!」
楽しそうな声が響く。
クレアも窓へ駆け寄った。
「クロエ!」
「見て!」
クロエも立ち上がる。
窓の外では雪が静かに降り続いていた。
「きれいだね。」
そう笑った、その時だった。
一羽の黒い鳥が校庭へ降り立つ。
雪の中で、その黒い姿だけが異様だった。
「あれ?」
クロエは目を細める。
鳥は何も鳴かない。
ただ静かに校庭を歩く。
そして。
一枚の黒い羽を落とした。
風が吹く。
黒い羽は雪の上を転がり、やがて校舎の陰へ消えていった。
次の瞬間。
黒い鳥は音もなく空へ飛び去る。
「変な鳥だったね。」
クレアは首をかしげた。
「そうだね……。」
クロエも違和感を覚えた。
けれど、それ以上考えることはなかった。
教師が教室へ入ってきたからだ。
「席につきなさい。」
授業が始まる。
⸻
その日の放課後。
校長室。
一人の教師が小さな箱を机へ置く。
校長は静かに箱を開けた。
中には。
黒い羽が一枚。
教師は低い声で報告する。
「中庭で見つかりました。」
校長は羽を手に取る。
しばらく見つめたあと、小さく息を吐いた。
「またか。」
教師は表情を曇らせる。
「三枚目です。」
「結界に異常は?」
「ありません。」
「ですが……。」
教師は言葉を止めた。
「昨日より、魔力がわずかに弱まっています。」
部屋が静まり返る。
校長は窓の外を見る。
雪は今も降り続いていた。
「教師の巡回を増やしなさい。」
「生徒には知らせなくていい。」
「はい。」
教師は深く頭を下げ、部屋を出ていく。
校長は一人になった。
机の上には黒い羽。
風が窓を揺らす。
その時だった。
校長の机に置かれていた魔法具が、小さく光る。
結界の反応だった。
ほんの一瞬。
本当に一瞬だけ。
学園を包む巨大な結界が、弱々しく揺れた。
校長の表情が変わる。
「……何が起こってる。」
誰にも聞こえない声。
窓の外では一年生たちが雪ではしゃいでいる。
笑い声が響く。
その平和な景色を見つめながら、校長は静かに拳を握り締めた。




