ルーナ物語
第七章 冬の始まり
魔法祭が終わると、フィーニス魔法学園は少しだけ静けさを取り戻した。
色づいていた木々は葉を落とし始め、朝の風は日に日に冷たくなっていく。
一年一組の生徒たちも、入学した頃とは少しずつ変わっていた。
初めて杖を握った春。
魔法の扱いに戸惑っていた日々。
それはもう、少し遠い思い出になりつつあった。
その日、一年一組は訓練室へ集められていた。
教室の中央には木製の人形が一体ずつ並んでいる。
腕や足には、深い傷を模した切れ込みが刻まれていた。
レオナルドはゆっくりと教壇へ立つ。
「今日は治癒魔法を学ぶ。」
生徒たちは静かに耳を傾ける。
「魔法使いは戦うだけではない。」
「傷ついた者を救うことも、大切な役目だ。」
そう言って、一体の人形へ杖を向ける。
柔らかな光が人形を包む。
傷が少しずつ消え、やがて元通りになった。
「すごい……。」
教室から小さな声が漏れる。
レオナルドは生徒たちを見渡した。
「焦る必要はない。」
「今日は傷を完全に治せなくてもいい。」
「相手を助けようとする気持ちを忘れないこと。」
その言葉とともに実技が始まった。
クロエは杖を構える。
深呼吸。
魔力をゆっくり集める。
白い光が人形を包み込んだ。
傷は完全には消えなかった。
しかし浅くなり、ひび割れも少しだけ塞がる。
「よくできた。」
レオナルドが小さくうなずく。
クロエは少しだけ安心した。
隣ではクレアが苦戦していた。
「うーん……。」
何度挑戦しても光が安定しない。
「あれ?」
「なんで……。」
クロエは隣へ歩いていく。
「力を入れすぎてるかも。」
「もっと優しく。」
クレアは目を閉じる。
もう一度だけ深呼吸。
ゆっくり杖を向ける。
淡い光が傷を包んだ。
少しだけ傷が浅くなる。
「できた!」
思わず飛び跳ねるクレア。
クロエも嬉しそうに笑う。
「やったね。」
授業が終わり、二人は廊下を歩く。
窓の外では雪が降り始めていた。
「今年初めての雪だ。」
クレアは窓に駆け寄る。
「きれい……。」
クロエも隣へ立つ。
白い雪が、学園をゆっくり染めていく。
「もう冬なんだね。」
「うん。」
二人はしばらく雪を眺めていた。
その時だった。
中庭の木へ、一羽の黒い鳥が降り立つ。
黒い翼。
赤い瞳。
一瞬だけ、クロエと目が合った気がした。
次の瞬間。
鳥は羽ばたき、一枚の黒い羽だけを残して空へ消えていく。
「……今の。」
クロエが小さく呟く。
クレアも辺りを見回した。
「鳥?」
「分からない。」
風が吹く。
黒い羽は雪の上を転がり、やがて見えなくなった。
二人は知らない。
その小さな違和感が、世界の終わりへ続く最初の兆しだったことを。




