ルーナ物語
第六章 魔法祭
五月の終わり。
学園には、いつも以上の賑わいが広がっていた。
中庭には色鮮やかな旗が並び、建物には花の飾りが取り付けられている。
魔法で作られた光の鳥が空を舞い、小さな子どもたちは歓声を上げながら追いかけていた。
今日は一年に一度の行事。
フィーニス魔法祭。
世界各地から卒業生や保護者、魔法省の職員が訪れる、学園最大の催しだった。
「人がいっぱい……。」
クレアは辺りを見回しながら目を丸くする。
クロエも思わず笑った。
「昨日までと全然違うね。」
露店には魔法で冷やした果実ジュース。
空中に浮かぶ菓子。
小さな魔法生物と触れ合える広場。
どこを歩いても笑い声が聞こえてくる。
レオナルドが一年一組を集めた。
「今日は一般のお客様へ研究発表を行う。」
「君たちが準備してきた成果を見せてほしい。」
「はい!」
元気な返事が重なる。
やがて来場者が次々と足を止め始めた。
「この学園は千年以上前に建てられました。」
「この結界は歴代の校長たちによって受け継がれています。」
クロエも一枚の資料を手に取り、子どもたちへ説明する。
「この塔は時計塔です。」
「学園の魔力を安定させる役目もあるんですよ。」
「へぇー!」
目を輝かせる子どもたち。
クロエは少し照れながら笑った。
「ありがとう。」
その姿を見ていたレオナルドも静かにうなずく。
昼が近づく頃。
発表は無事に終わった。
「終わったぁ!」
クレアが大きく伸びをする。
「緊張した。」
「でも楽しかったね。」
クロエも笑顔でうなずく。
二人は露店を見て回ることにした。
魔法で描く似顔絵。
空飛ぶ紙飛行機大会。
小さな決闘体験。
普段は静かな学園が、今日はまるで一つの町のようだった。
その時だった。
広場の向こうから、小さな泣き声が聞こえる。
「お母さん……。」
幼い男の子が、一人で立ち尽くしていた。
辺りを見回しても保護者の姿はない。
クロエは迷わず駆け寄る。
「どうしたの?」
男の子は涙をこぼしながら答える。
「お母さんが……いない……。」
クロエはしゃがみ込み、優しく目線を合わせた。
「大丈夫。」
「一緒に探そう。」
クレアもすぐ隣へ来る。
「先生を呼んでくる!」
二人は手分けして動き始めた。
十分ほどして。
「いた!」
人混みの向こうから女性が走ってくる。
「ごめんなさい!」
母親は男の子を強く抱きしめた。
何度も何度も頭を下げる。
「ありがとうございました。」
クロエは少し照れくさそうに笑う。
「無事でよかったです。」
母親と子どもが去っていく。
クレアはクロエを見て笑った。
「やっぱりクロエらしい。」
「え?」
「困ってる人を見ると、すぐ走って行く。」
クロエは少し考えてから笑う。
「放っておけないだけだよ。」
その言葉を、少し離れた場所で校長が聞いていた。
校長は静かに目を閉じ、小さく微笑む。
夕方。
祭りも終わりに近づく。
空は茜色に染まり、笑い声も少しずつ静かになっていく。
クロエは校門の近くで立ち止まった。
今日一日。
たくさんの笑顔を見た。
たくさんの「ありがとう」を聞いた。
(こんな毎日が続けばいいな。)
心からそう思った。




