ルーナ物語
第三章 最初の魔法
春の風が、訓練場を優しく吹き抜けていた。
一年一組の生徒たちは、広い石造りの訓練場へ集まっている。
空は雲一つない青空。
レオナルドが魔法陣の描かれた円の前へ立っていた。
レオナルドは一本の羽を持ち上げる。
白く、小さな鳥の羽。
「今日が、君たちにとって初めての実技授業になる。」
生徒たちは自然と表情を引き締めた。
「難しい魔法は使わない。」
「まずは魔力を正しく操ることを覚えよう。」
レオナルドは羽を手のひらへ乗せる。
「よく見なさい。」
杖を軽く振る。
淡い光が羽を包み込んだ。
ふわり。
羽は風もないのに静かに宙へ浮かび上がる。
生徒たちから小さな歓声が上がった。
「すごい……。」
「綺麗。」
レオナルドは羽をゆっくり地面へ戻した。
「魔法に必要なのは魔力量ではない。」
「集中力だ。」
「力任せでは魔法は暴走する。」
「優しく扱えば、魔法も応えてくれる。」
生徒たちは一人ずつ羽を受け取る。
クロエも杖を構えた。
「落ち着いて。」
自分へ言い聞かせるように呟く。
光が杖先へ集まる。
羽が少しだけ揺れた。
しかし。
そのまま石畳へ落ちる。
「あ……。」
失敗だった。
周りでは成功する生徒もいる。
少しだけ焦る。
「大丈夫。」
隣からクレアが笑う。
「私なんて全然浮かなかったよ。」
そう言って自分の羽を見せる。
ぴくりとも動いていない。
クロエは思わず笑った。
「一緒だね。」
「うん。」
二人はもう一度杖を構える。
深呼吸。
力を入れすぎない。
焦らない。
杖の先へ魔力が集まる。
ふわり。
今度は羽が少しだけ浮いた。
ほんの数センチ。
それでもクロエは嬉しかった。
「できた……!」
クレアも嬉しそうに笑う。
「おめでとう!」
その声につられ、クロエも笑顔になった。
「クレアもできるよ。」
「うん!」
クレアも集中する。
何度も失敗する。
それでも諦めない。
何度目かの挑戦で。
羽がゆっくり宙へ浮かんだ。
「やった!」
思わず飛び跳ねる。
クロエも一緒に喜んだ。
レオナルドはその様子を静かに見つめる。
「いい。」
「魔法は一人で競うものではない。」
「互いに支え合って学ぶものだ。」
その言葉に、生徒たちは静かにうなずいた。
授業が終わり、生徒たちは訓練場をあとにする。
クロエとクレアも並んで歩いていた。
「午後からも楽しみだね。」
「うん。」
その時だった。
訓練場の向こう側。
図書館へ続く石畳の道を、一人の少女が静かに歩いていた。
腕には数冊の本。
誰とも話さない。
誰とも目を合わせない。
ただ静かに図書館の中へ消えていく。
クロエはその背中を見つめる。
不思議だった。
どこか寂しそうで。
それでいて、誰よりも落ち着いて見えた。
静かに図書館の扉を開け、その中へ姿を消した。
春風だけが、二人の間を通り過ぎていった。




