ルーナ物語2
第七章 消えた村
数日後。
新たな知らせが学園へ届いた。
今度は、村からの使者ではなかった。
予定されていた連絡が、届かなかった。
学園の南にある小さな村。
毎朝、魔法具を使って定時報告を送ることになっていた。
異常がなくても。
何も起きていなくても。
決まった時間に、必ず連絡を入れる。
だが、その朝。
報告は届かなかった。
校長はすぐに教師を向かわせた。
⸻
村へ到着した教師たちは、入り口で足を止めた。
静かだった。
あまりにも静かだった。
家々は残っている。
扉も窓も壊れていない。
道には荷車が置かれたまま。
洗濯物が風に揺れている。
食卓には、食べかけの朝食が残されていた。
けれど。
村人の姿が、どこにもない。
「誰かいませんか!」
教師の声が村へ響く。
返事はない。
家を一軒ずつ調べる。
寝室。
倉庫。
井戸。
畑。
どこにも人はいなかった。
争った形跡もない。
逃げた様子もない。
まるで、村人だけが突然消えてしまったようだった。
「魔力を探ります。」
教師の一人が杖を掲げる。
淡い光が村全体へ広がった。
その光は、すぐに消える。
「……何もありません。」
「何も?」
「人の魔力も。」
「土地の魔力も。」
「完全に消えています。」
教師たちは言葉を失う。
村人たちは、どこかへ逃げたのではない。
魔力ごと。
存在の痕跡ごと。
この場所から消えていた。
村の中央。
井戸の縁に、一枚の黒い羽が置かれていた。
まるで。
誰かが自分たちの仕業だと示すように。
⸻
その日の夕方。
校長室には、教師たちが集まっていた。
重い沈黙。
机の上には、村の地図と報告書。
「生存者は。」
「見つかりませんでした。」
「周辺も捜索しましたが、足跡さえありません。」
「村人の数は。」
「八十七名です。」
校長は目を閉じた。
八十七人。
朝を迎え。
食事をし。
働き始めようとしていた人々。
そのすべてが、一瞬で消えた。
「これは、もう異変ではありません。」
一人の教師が言う。
「明確な攻撃です。」
誰も否定しなかった。
「次は学園かもしれません。」
校長はゆっくりと目を開いた。
「すべての授業を短縮する。」
「生徒の外出を禁止。」
「寮から本館までの移動にも教師をつける。」
「校門を閉鎖しなさい。」
「はい。」
「そして。」
校長は静かに続ける。
「戦闘の準備を始める。」
教師たちの表情が変わった。
「治癒班。」
「結界維持班。」
「避難誘導班。」
「各自、役割を確認すること。」
「これは訓練ではない。」
部屋の空気が張り詰める。
教師たちは深くうなずいた。
⸻
翌日。
学園の雰囲気は、大きく変わっていた。
校門は閉ざされている。
教師たちは全員、杖を携帯している。
授業は短くなり。
屋外で行われる実技はすべて中止された。
生徒たちの間にも、不安が広がり始める。
「外に出ちゃいけないって。」
「村で何かあったらしいよ。」
「先生たち、何も教えてくれない。」
教室にも落ち着かない空気が漂っていた。
一年一組。
レオナルドは教壇の前に立ち、生徒たちを見渡した。
「今日からしばらく、授業の内容を変更する。」
「放課後は、全員すぐに寮へ戻ること。」
「一人で行動してはいけない。」
クロエが手を上げる。
「先生。」
「何が起きているんですか。」
教室が静まり返る。
レオナルドは少しだけ黙った。
「学園の外で、危険な異変が起きている。」
「それ以上は、まだ話せない。」
「敵がいるんですか。」
別の生徒が尋ねる。
レオナルドは答えなかった。
その沈黙が、答えのようだった。
クレアの手が震えている。
クロエはそっと、その手を握った。
「大丈夫。」
小さな声で言う。
自分自身にも言い聞かせるように。
「先生たちがいるから。」
クレアは不安そうにうなずいた。
レオナルドは二人の様子を見つめる。
そして、静かに言った。
「君たちにできることは、指示を守ることだ。」
「自分の命を守ること。」
「仲間と離れないこと。」
「それも、立派な戦いだ。」
クロエは杖を握る。
何もできないことが悔しい。
けれど。
今は、教師の言葉に従うしかなかった。




