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鏡淵の調律 外伝 七海家前史 御岳から宮城へ、宮城から出雲へ —— 七海雫が生まれるまでの血脈  作者: ちとせ鶫
第2章 御岳からの逃走

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第18話 東の方角

 その夜、父が東を向いて眠った。


 無意識だったと思う——寝るときに方角を選んでいる様子ではなかった。布団を敷いて、横になって、そのまま眠った。それだけだった。岳人はまだ眠れなくて、薄暗い部屋の中で父の背中を見ていた。


 父は東を向いていた。


 窓の外は雪だった。雪の夜は独特の明るさがある——暗いのに、白く滲んだ光が外から差してくる。その光の中で、父の背中の輪郭がはっきり見えた。大きな背中だった。剣を使う人間の肩の形をしていた。東を向いていた。


     * * *


 「なぜ東を向いて寝るの」と岳人は聞いた。


 小声だった。父が眠っているかもしれなかったから。でも眠っていなかった。父の体が少し動いた——答えようとしたのか、それとも聞こえて動いただけなのか、岳人には分からなかった。


 父は何も言わなかった。


 早苗が言った。「寒いから早く寝なさい」


 岳人は布団に入った。


     * * *


 布団の中から、窓を見た。


 雪の夜の滲んだ光がある。東の方角に、その光がある。御岳は東にある——それだけは岳人も知っていた。父が向いているのは、御岳の方角だ。御岳に何があるか、岳人にはほとんど分からない。典嗣という人物がいる。朝比奈家という家がある。中間川という川がある。そういうことを断片的に知っていた。


 それが何なのかは分からなかった。


 東の空には、何があるんだろう。


 問いは、問いのまま宙に浮いた。答えを持っていなかった。父に答えてもらえなかった。でも問いが消えなかった。消えないまま、岳人はいつの間にか眠った。


     * * *


 後になって、岳人はその問いをずっと持ち続けたことに気づく。


 答えを持たないまま、問いだけを持ち続けた。それが何かを探す動きになった——どこかへ行こうとする動きに、少しずつなっていった。東の空に何があるかを知ることが目的だったわけではない。ただ、何かがあるはずだという感触が、岳人の背中を少しずつ押し続けた。


 父の背中が東を向いていたように。


 父は答えなかった。答えなかったことが、答えだったかもしれない。東に何があるかを問われて、道典には言葉がなかった——言葉にすれば、それが御岳への向きだと確定する。確定させたくなかったのか、確定できなかったのか。どちらか岳人には分からない。


 どちらでもよかった、と今は思う。


 父が東を向いていた。それだけが岳人に届いたことだった。

 その届き方が、岳人を動かした。

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