託されたもの
本編をお読みいただき、ありがとうございます。
この作品の続編を新作公開しました!
主人公が「黒い霧の渦」を封印した、その後の物語になります。
田舎のヒキニートおじさん、長寿になったので異世界に行く
〜新天地で同郷の女の子に目をつけられた〜
子狐とカラスのもとに
主からのメッセージが届いた。
『裏山の祠で待つ』
それだけの短い文。
だが、ただ事ではないとすぐに分かった。
二人は顔を見合わせる。
何も言わず、そのまま祠へ向かった。
裏山の祠。
そこには、すでに全員が揃っていた。
天狗。
九尾。
そして――亀夫婦。
静かな空気が流れている。
いつもの軽い雰囲気ではない。
張り詰めた空気。
何かが起きた。
それが伝わってくる。
やがて、天狗が一歩前に出た。
「……大事な話がある」
低い声で、そう告げる。
その一言で、場の空気がさらに引き締まる。
天狗はゆっくりと話し始めた。
皆がすでに知っていることも含めて
改めて、すべてを。
おじさんが龍の依頼を受けたこと。
ここ最近、毎日続けていた探索のこと。
ついにその場所を見つけたこと。
そして、異変が起きていたこと。
さらに。
その場所を、他の術師たちも探していたこと。
状況の危険性。
そして、解決方法。
おじさんの身体のこと。
すでに人ではなくなっていたこと。
長寿の存在となっていたこと。
そして。
おじさんが、自分のこれからの人生を決断したこと。
あの夢の話。
若い姿で、知らぬ世界を歩く夢。
すべてを話し終えたあと。
天狗は、わずかに間を置いた。
「……そして」
静かに続ける。
「異変は封印された」
「解決した」
その言葉に、場の空気が揺れる。
だが
次の一言が、さらに重くのしかかる。
「……あやつは、もうこの世界にはおらん」
誰も、すぐには反応できなかった。
理解はできる。
だが、受け止めきれない。
「異世界へ行った」
天狗の声だけが、静かに響く。
沈黙。
風の音だけが聞こえる。
九尾が、静かに言葉を継ぐ。
「……そしてな」
「これから、この場所をどうするか」
「それも、あやつは考えておった」
おじさんは
この場所を、子狐とカラス、そして亀夫婦に託した。
裏山。
祠。
この一帯すべてを。
さらに、両親のことも。
最後まで見届けてほしいと。
すべてが語られた。
あとは、それぞれの決断だけだ。
最初に口を開いたのは、子狐だった。
迷いはなかった。
「……私がやる」
静かに、しかしはっきりと言う。
「おじさんの代わりに、この場所を守る」
そして続ける。
「おじさんの両親も……最後まで面倒を見る」
少しだけ視線を落とす。
だが、すぐに顔を上げた。
「今まで、いろいろさせてもらった」
「楽しかった」
その言葉には、偽りがない。
「これからも……人間の世界で、生きていく」
できるところまで。
その覚悟があった。
次に、カラスが翼を揺らす。
「……俺もだ」
短く言う。
「子狐と一緒に、ここで暮らす」
そして、少しだけ笑うように言った。
「財は子狐が作る」
「俺は、この地域と裏山を監視する」
「自宅警備員ってやつだな」
軽く言ったが
その言葉の裏には、強い意志があった。
ここを守る。
それが役目だと。
亀夫婦も、静かに答える。
「ここは、安住の地です」
旦那が言い、嫁が続ける。
「最後まで、ここにおります」
そして。
「子狐様のお手伝いもさせていただきます」
穏やかな声。
だが、確かな決意。
全員の答えが出た。
天狗が、満足そうに頷く。
九尾も目を細める。
「……あやつはな」
九尾が言う。
「好きにしろと言っておった」
「人間と共に生きてもいい」
「異界へ帰ってもいい」
「ここを、他の異界の者たちの住処にしてもいい」
すべて、任されている。
そして。
天狗が、子狐を見る。
「……金庫の中身」
「全部、お前に託すそうだ」
「好きに使え、とな」
子狐は、静かに頷いた。
誰も、軽くは受け止めていない。
だが、逃げる者もいなかった。
それぞれが、それぞれの役割を受け入れる。
静かな祠の前で。
言葉は少ない。
だが
確かな決意が、そこにはあった。
守る者たちによって。
受け継がれたこの場所で。
これは、一人の男が遺したものと
それを託された者たちの物語。
どこか遠い世界で続いていく、もう一つの物語の始まりである。
本日をもって、本作は無事に完結となります。
最後までお付き合いいただき、誠にありがとうございました。
本編は完結しましたが、番外編を投稿しました。
作中で少しだけ登場した女性の話になります。
本編の裏側や、その後の一端として読んでいただければ嬉しいです。




