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田舎のヒキニートおじさん、化物になってものんびり暮らしたい 〜裏山で巻き込まれて烏と狐に目をつけられた〜  作者: イシクラゲ


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選ぶ道「回想編」





 封印に行く前にみんなに会えた、それだけでいい。



 あと、温泉に入ってから行くことにした。



 温泉に浸かりながら、屋敷でのことが脳裏に浮かぶ。



 まだ夜が明ける前。


 

 あの話し合いだ。



 夜が明ける頃になって、話し合いは終わった。


 

 龍、天狗、九尾 そして俺。


 四人で囲む空間は静かで、けれど張り詰めた空気が漂っている。


 


 軽口も冗談もない。


 ただ、これからのことを決めるための時間だった。


 


 やがて、龍がゆっくりと口を開いた。


 


「……あの黒い霧の渦。その先は別の世界だ」


 


 低く、よく通る声。


 


 予想はしていた。


 だが、こうしてはっきりと言葉にされると、現実として重くのしかかってくる。


 


「俺が元々住んでいた世界だ」


 


 続けられたその言葉に、思わず視線を上げる。


 


 龍は静かに語り始めた。


 


 千年ほど前。


 あの黒い霧の渦を通って、龍はこの世界へとやってきた。


 


 しばらくは地球で暮らしていたが、やがて異界を見つけ、ここを拠点にするようになったという。


 


「こちらに来るとき、向こう側の渦は封印した」


 


 淡々と語られる事実。


 


「こちら側もな」


 


 つまり、両方を閉じた。


 


 だが


 


「両方とも壊れた」


 


 その一言で、全てが繋がる。


 


 今、あの黒い霧の渦が存在している理由。


 そして、繋がってしまっている二つの世界。


 


「消すには、両方で封印し直す必要がある」


 


 龍の言葉に、自然と視線が落ちる。


 


 地球側。


 そして――異世界側。


 


 どちらも閉じなければならない。


 


 しばらく考える。


 だが、迷いは長くは続かなかった。


 


「……俺がやります」


 


 口に出していた。


 


 三人の視線が、一斉にこちらへ向く。


 


「地球側を封印して……向こうに行って、もう一度封印する」


 


 それで終わる。


 単純な話だ。


 


 龍はわずかに目を細めた。


 


「順番は逆だ」


 


 短く言う。


 


「向こうで封印してから、こちらを閉じろ」


 


 ――なるほど。


 


 戻れなくなる可能性を考えれば、それが正しい。


 


 小さく頷く。


 


 そして、もう一つ。


 


 俺の中で決めていたことを、口にする。


 


「……俺は、もう人間じゃない」


 


 言葉にすると、妙に実感が湧いた。


 


 誰も否定しない。


 それが現実だからだ。


 


「長寿種族になって、歳もあまり取らない」


 


 終わりがない。


 


 それは、便利なようで


 


 少しだけ、怖いものでもある。


 


「このまま地球で生きると、全部見送ることになる」


 


 両親。


 子狐。


 カラス。


 


 時間が進めば、必ず別れが来る。


 


 あの島で、何度も考えた。


 


 その結果、出した答えがある。


 


「……だったら」


 


 ほんの少しだけ笑う。


 


「向こうで生きるのも、ありかなって思ってます」


 


 龍のいた世界。


 


 剣と魔法の世界。


 


 子供の頃、憧れた世界。


 


「どうせなら、夢のある世界で新しい人生をやってみたい」


 


 静かに言う。


 


 そして、残すものの話を続けた。


 


「今の生活は、子狐とカラスに任せたい」


 


 裏山。


 祠。


 温泉。


 


 全部。


 


「両親がいなくなったあとなら、俺がいなくなっても問題ないと思う」


 


 そして


 


「子狐が、俺の代わりに生きてくれたら助かる」


 


 金のことも、土地のことも。


 全部、整えてある。


 


 金庫の中に。


 


 鍵も、子狐は持っている。


 


 問題はない。


 


「……だから」


 


 少しだけ言葉を切る。


 


「黙って行きたい」


 


 誰にも言わずに。


 


 子狐にも。


 カラスにも。


 亀たちにも。


 両親にも。


 


 ――静かに、消える。


 


 龍と、天狗と、九尾に頼む。


 


 しばらく沈黙が流れた。


 


 やがて、天狗が口を開く。


 


「好きにすればいい」


 


 九尾も続く。


 


「お前の人生だ」


 


 軽い調子。


 


 だが――否定はしない。


 


 それで十分だった。


 


 少しだけ肩の力が抜ける。


 


 そして


 


 もう一つ、話しておきたいことがあった。


 


「同じ夢を見るんです」


 


 静かに語る。


 


 若い自分。


 


 手には槍と刀。


 


 天狗と九尾からもらったもの。


 


 隣には、一人の女性。


 


 フードを被り、顔はよく見えない。


 


 だが、杖を持っている。


 


 魔法使い。


 


 そんな雰囲気だ。


 


 景色は、知らない世界。


 


 見たことのない生き物。


 


 見たことのない植物。


 


 ただ、二人で歩いている。


 


 それだけの夢。


 


 そして


 


 必ず、目が覚める。


 


「……これは」


 


 ゆっくりと息を吐く。


 


「未来なんじゃないかって思ってます」


 


 言い切る。


 


 龍が、かすかに笑った。


 


「ならば、行け」


 


 その一言だった。


 


 そして、龍は元の世界の根城の場所を教えてくれる。


 


 根城。


 


 宝がある場所。


 


「結界を張ってある。誰も入れん」


 


 淡々とした説明。


 


「残っていれば、好きに使え」


 


 ありがたい話だ。


 


 だが、龍は続けた。


 


「その代わり、頼みがある」


 


 少しだけ空気が変わる。


 


「向こうの世界で、ドラゴンがまだ生きていれば、会ってほしい」


 


 そして、差し出されたのは宝玉だった。


 


「これを渡せ。俺の子種だ」


 


 思考が一瞬止まる。


 


 だが、すぐに理解する。


 


 龍にとって、それは大切なものだ。


 


「もし産んでくれるドラゴンがいれば、頼んでほしい」


 


 静かな願い。


 


「お主にはドラゴンの加護がある。話は聞いてもらえるだろう」


 


 断る理由はない。


 


「分かりました」


 


「やります」


 


 そう答える。


 


 龍は宝玉を三つ、俺に渡した。


 


 重みがある。


 


 物理的にも、意味としても。


 


 気づけば、外は明るくなっていた。


 


 朝だ。


 


 長い話し合いだった。


 


 体も、頭も、限界に近い。


 


「……少し寝ます」


 


 そう言って、部屋を借りる。


 


 横になる。


 


 目を閉じる。


 


 これからのことは、もう決まっている。


 


 あとは、やるだけだ。


 


 そう思いながら


 


 静かに眠りに落ちた。





本編をお読みいただき、ありがとうございます。


このエピソードとあわせて、新作を1話公開しました!

この作品の続編になります。


主人公であるヒキニートのおじさんが「黒い霧の渦」を封印した

その後の物語になります。


田舎のヒキニートおじさん、長寿になったので異世界に行く

〜新天地で同郷の女の子に目をつけられた〜

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