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田舎のヒキニートおじさん、化物になってものんびり暮らしたい 〜裏山で巻き込まれて烏と狐に目をつけられた〜  作者: イシクラゲ


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見守る者たち





 龍の屋敷。


 


 おじさんが黒い霧の渦へと向かってから、しばらくの時間が過ぎていた。


 


 広い部屋の中で


 


 九尾は静かに座り、目を閉じている。


 


 その意識は、ここにはない。


 


 千里眼。


 


 視線は遠く


 


 裏山の、あの洞窟へと向けられていた。


 


「……おるな」


 


 小さく呟く。


 


 洞窟の入口。


 


 そこには、十人以上の人間が集まっていた。


 


 統一された動き。


 


 ただの素人ではない。


 


 術者の気配。


 


「……あやつら」


 


「何をしようとしておるのかの」


 


 九尾はわずかに眉を寄せる。


 


 目的が見えない。


 


 祠を探しているのか。


 


 封印を解こうとしているのか。


 


 それとも、別の何かか。


 


「……わからん」


 


 そう呟くしかない。


 


 そのとき。


 


 視界の端に動きがあった。


 


 さらに人影が現れる。


 


「……また来たか」


 


 三十代ほどの女。


 


 そして、十代の少女。


 


 それに、男が二人。


 


 合計四人。


 


 既にいる連中と合流する。


 


 何かを話しているようだ。


 


 距離がある。


 


 声までは聞こえぬ。


 


 だが、ただの挨拶ではない。


 


 空気が張り詰めている。


 


 しばらくして。


 


 動きがあった。


 


 少女。


 


 ジャージにコートを羽織った小柄な姿。


 


 その少女が、洞窟の入口へと向かう。


 


「……ほう」


 


 九尾は興味深そうに目を細める。


 


 周囲の者たちは動かない。


 


 ただ、見守っている。


 


 少女が、黒い霧の前で一度立ち止まる。


 


 そして


 


 そのまま、中へと入っていった。


 


 静寂が落ちる。


 


 外に残った者たちは、じっと待っている。


 


 誰も動かない。


 


 ただ、時間だけが流れる。


 


 三十分ほど。


 


「……出てこんの」


 


 九尾が呟く。


 


 そのとき。


 


 三十代の女が、動いた。


 


 明らかに様子がおかしい。


 


 焦り。


 


 苛立ち。


 


 不安。


 


 それらが入り混じっている。


 


 洞窟へ向かおうとする。


 


 だが


 


 すぐに、周囲の男たちに取り押さえられる。


 


 押さえ込まれ。


 


 抵抗するが、抑えきれない。


 


 そのまま、連れていかれる。


 


「……なるほどの」


 


 九尾は小さく笑う。


 


「……おお」


 


「いいタイミングじゃの」


 


 その瞬間。


 


 九尾の視界に、おじさんの姿が映る。


 


 すでにやつは、中に入っている。


 


 気配は消えている。


 


 誰にも気づかれていない。


 


「……うまくやりおる」


 


 感心したように呟く。


 


 そして、じっと見守る。


 


 数分後。


 


 外の連中が、ざわつき始める。


 


「……感づいたか」


 


 九尾が目を細める。


 


 何かがおかしいと察したのだろう。


 


 洞窟へ視線が集中する。


 


 中へ入るか。


 


 迷っている。


 


 だが、決断が遅い。


 


 さらに、時間が流れる。


 


 十分ほど。


 


 そのとき、変化が起きた。


 


 洞窟の入口。


 


 黒い霧が、薄れていく。


 


 揺らぐ。


 


 崩れる。


 


「……おお」


 


 九尾が声を漏らす。


 


「消えていくぞ」


 


 黒い霧が。


 


 完全に、消えた。


 


 洞窟の中が、はっきりと見える。


 


 その奥に、祠がある。


 


「……成功したか」


 


 九尾が呟く。


 


「あやつ……やりおったな」


 


 外の連中は、さらに騒ぎ出している。


 


 混乱。


 


 驚愕。


 


 理解が追いついていない。


 


 九尾は、そこで千里眼を解いた。


 


 意識を戻す。


 


 静かに目を開ける。


 


 視線の先。


 


 龍と天狗がこちらを見ていた。


 


「終わったぞ」


 


 短く告げる。


 


 龍が静かに問う。


 


「……これでよかったのか」


 


 九尾は肩をすくめる。


 


 天狗も同じように息を吐いた。


 


「……わからん」


 


 九尾が言う。


 


「だが――」


 


「やるべきことは、やった」


 


 天狗が続ける。


 


 しばらく、三人は無言だった。


 


 やがて。


 


 龍が酒を手に取る。


 


 杯に注ぐ。


 


 天狗も。


 


 九尾も。


 


 それぞれ杯を持つ。


 


 言葉はない。


 


 ただ一つ。


 


 思うことは同じだった。


 


 あやつが、無事であることを。


 


 三人は静かに杯を掲げる。


 


 そして、小さくぶつけた。


 


 乾いた音が、部屋に響いた。


 


 無言のまま。


 


 酒を飲む。


 


 その願いを、胸に込めながら。





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