その先にいたもの
龍の屋敷から、空間移動で戻る。
裏山の祠。
見慣れた場所。
空気が違う、落ち着く。
「……戻ってきたな」
小さく呟く。
亀夫婦がいた。
いつもの場所。
水の中。
ゆっくりと動いている。
少しだけ話す。
内容は、いつも通りだ。
特別なことは言わない。
それでいい。
そのまま、工場へ向かう。
子狐がいる。
作業中だった。
「……戻った」
それだけ言う。
子狐が振り向く。
「おかえり」
短い。
だが、それで十分だ。
少しだけ話す。
内容は軽い。
深い話はしない。
しない。
そのまま家に戻る。
着替える。
動きやすい服に。
無駄を削る。
必要な物は収納鞄に入れる。
リビング。
カラスがいる。
秋田犬たちもいる。
いつもの光景。
少しだけ、過ごす。
頭を撫でる。
何も考えない時間。
それが必要だった。
そのまま、実家へ向かう。
母親がいる。
夕食を作ってもらう。
いつも通り、変わらない。
食べる。
味も、変わらない。
「……うまい」
自然に言葉が出る。
食べ終わり、少し話す。
何気ない会話。
それだけでいい。
家を出ると。
夜だ、暗かった。
空気が冷たい。
洞窟の近くまで、空間移動する。
すぐに気配を消す。
完全に。
存在を消す。
千里眼で洞窟を確認する。
「……増えてるな」
人がいる。
十人以上。
多いな。
中は見えない。
黒い靄が遮っている。
だが、外の様子は分かる。
動き、配置。
何か、揉めている。
空気が荒れている。
慎重に、少し近づく。
気配を消したまま。
そこで、女性を見つける。
見覚えがある。
林檎ストアー。
ショッピングモール。
あの時の、あの女だ。
「……」
状況を見る、揉めている。
複数に抑えられている。
抵抗している。
だが、数が違う。
押さえ込まれる。
そのまま、連れていかれる。
「……」
今のうちだな。
まだ外も動いている。
注意が散っている。
「……今だな」
決める。
洞窟の中に
人がいるかどうかは分からない。
だが、関係ない。
やる。
そのままの姿で、気配は消したまま。
空間移動して、一瞬で内部へ。
元の祠の場所へ急ぐ。
誰もいない。
静かだ、黒い靄だけがある。
すぐに動く、土魔法。
地面に穴を掘る。
龍の鱗。
龍の爪。
そこに置く。
埋める。
押し固める。
祠を置く。
位置を合わせる。
鱗と爪の真上に。
そのとき。
外で、異変に気づいた気配。
動きが変わる。
「……急ぐか」
祠の中へ、御神体を入れる。
御札を貼る。
力が動く。
結界が、張られる。
だが、終わりじゃない。
そのまま、黒い渦を見る。
迷わない。
黒い渦に飛び込む。
視界が変わる。
空間が歪む。
落ちる感覚はない。
吐き出され、別の場所にいた。
薄暗い。
黒い霧が漂っている。
だが、さっきの場所とは違う。
同じように動く。
土魔法、穴を堀り。
鱗と爪を入れる。
埋める。
祠を置く。
御神体を入れる。
御札を貼る。
離れる。
変化が起きる。
黒い霧が、揺れる。
薄くなる。
消えていく。
無事に終わったな。
視界が、開ける。
はっきりと、見えるようになる。
見渡す。
そこに一人。
立っていた。
ジャージにコートを着た女の子。
ただ、静かに。
こちらを見ていた。




