白の中の気配
冷たい空気に包まれ
雪が、静かに舞い降りている。
一面が白一色。
音が消える。
世界が、少しだけ遠くなる。
「……寒いな」
小さく呟く。
吐く息が、すぐに白く溶けていく。
いつもの生活に
少しずつ、体が戻ってきている。
あの島の時間。
十三年。
長かったはずなのに
日常は、あっさりと戻ってくる。
探索の準備をする。
装備を整える。
問題ない。
そのまま現地へ。
カラスに変化する。
羽が広がる。
視界が変わる。
千里眼を使う。
遠くを見る。
位置を確認する。
空間移動。
一瞬で移動する。
そのまま、飛び立つ。
上空を旋回する。
見渡す。
白。
ただ白い。
山も。
木も。
地面も。
全部が覆われている。
「……」
美しい。
思わず見入る。
静かで、綺麗で
現実じゃないみたいだ。
だが
「……寒いな」
やる気が削られる。
今日の区画を確認する。
位置を把握する。
そのまま、探索を開始する。
雪の中。
感覚を研ぎ澄ます。
探る。
動く。
二時間ほど経つ。
何もない。
いつも通りだ。
そのとき、少し離れた場所で。
何かが動いた。
白い中で
白い、小さなもの。
違和感。
飛行しながら
千里眼で確認する。
「……あれか」
見覚えがある。
紙。
人の形。
空を漂っている。
「……式神だな」
たぶん間違いない。
木の上に降りる。
完全に、気配を消す。
これは
地獄の訓練で身につけたものだ。
狩りの技術。
気配を消さなければ
動物は逃げる。
捕まえられない。
だから、徹底的に叩き込まれた。
今では
自分でも分からないくらい、自然にできる。
その状態で、観察する。
千里眼で、細かく見る。
式神は
何かを探しているように見える。
一定の範囲を巡っている。
規則的だ。
「……探索か」
そう判断する。
しばらく見ていると
式神が動き出す。
離れていく。
そのまま、千里眼で追う。
距離を保つ。
見つからないように。
数キロほど離れた場所。
開けた場所に出る。
そこに、車があった。
四人ほど、人もいる。
式神が戻る。
一人が、それを回収する。
「……」
距離を保つ。
前に一度、千里眼で見たとき。
気づかれたような感覚があった。
あれは危ない。
だから、今回は近づかない。
遠くから。
観察だけ。
顔までは見えない。
だが、動きは分かる。
複数の式神を回収している。
作業的だ。
慣れている。
しばらくして、全て回収したのか。
そのまま車に乗り、帰っていった。
ナンバーだけ、控え。
記憶する。
そのあと
自分の区画の探索を終わらせる。
最低限はやる。
それでいい。
帰宅すして、そのまま温泉へ。
体を温める。
湯に浸かりながら、考える。
「……式神か」
記憶にある。
陰陽師。
紙の人形。
使役する存在。
他にもいる。
神社、神主に巫女。
寺、坊主。
祈祷師。
霊媒師。
そういう力を持つ者がいれば
使えるのかもしれない。
「……あとで聞くか」
天狗と九尾に。
確かなのは、自分以外にも。
あの場所で、何かを探している者がいる。
それだけだ。
風呂から上がる。
家に戻る。
そのまま、のんびりする。
スマホを出す。
天狗と九尾に、メッセージを送る。
内容は簡潔に。
あの地域で
他の人間が探索していること。
紙の人形。
式神と思われるもの。
それを使っていたこと。
送る。
すぐに返信が来る。
「今後は見つからないように動け」
短い指示。
さらに
「式神使いの情報はあるか?」
聞かれる。
ナンバーと人数。
分かる範囲で伝える。
それでいい。
報告は終わる。
やることはやった。
スマホを置き。
少しだけ、考える。
だが、今日はやめる。
ふと思い立ち、千里眼を使う。
温泉施設の様子を見る。
映る。
湯気。
明かり。
人の気配。
ご近所の人たちが、使ってくれている。
立ち話をして、笑っている。
蒸し場では、卵を蒸している。
湯気の中で、ゆっくりと動いている。
休憩室では、将棋を指している人もいる。
静かな時間。
だが、温かい。
「……いいな」
小さく呟く。
あそこが、憩いの場所になればいい。
それでいい。
「……陰陽師の配信でもみるか」
小さく呟く。
今日は、ゆっくり休むことにした。




