第84話 レティシアと…宇宙へ!
今朝、もう辛抱たまらん私は、意を決してアカリ氏に逢いに行くことにした。情報ではもう帰ってきているはずだから。
プランはこうだ。街の中心まで行き、軌道エレベーターに乗って宇宙港へ。シンプルでしょ?
朝のルーティンは張り切りすぎて苦くなったハーブティで切り上げ、早速準備にかかる。
宇宙に行くのだから、薄着すぎても駄目だろう。街までは暑いから、袖無しのワンピースでもと思ったけど、宇宙って何があるかわからない。急に宇宙空間に投げ出されることも想定しておかなければならない!かな?
まあその辺りも加味して、久しぶりに逢うんだからそこそこお洒落して……。
行こう、軌道エレベータへ!
軌道エレベーターはサントルの街の中心にある。
いつものように歩いても行くことができるのだけど、とにかく早くたどり着きたい私は交通機関を使うことにした。早く逢いたいとかじゃなく、時間的体力的な問題だ。
このコミュニティバスというのは本当に便利で、停車場はあちこちにあるわ、しょっちゅう走っているわで、常用しない人間は後ろめたいことがあるか、異常者か。そのどちらかとも言われている。でもね、こんなに綺麗な街を散策しないほうがおかしいよ、と私は思う。
あと、バスはやたら速い。
なんやかんや考えているうちに、軌道エレベーターの巨大な施設が近付いてきて、バスは地下道を走るようになった。もうじき終点だ。
「うわ~こんなんだったっけ」
軌道エレベータの地上側駅。ここに来ること自体、初等部に入りたての頃以来だ。宇宙時代とは言っても、私たちのようにほとんど宇宙と接点のない人は多い。
サントルののどかな街並みと異なり、コンクリートと金属だけで作られて、空もほとんど見えない。人によっては未来的で美しいというだろうけど、私はどうも慣れそうにない。
「でも、これからよく来ることになるんだもんね、苦手とか言ってられないわ」
こんな変てこなところだけど、意外と人がいるものだ。ここでダンスを始めれば間違いなく誰かにぶつかる。そんな密度で人が歩くので、流れができていてる。今は逆らったり踊ったりすべきじゃない。
「軌道エレベーター地上駅・コスモスクウェア方面、で合ってる?」
分岐の案内が出てくる頃には、周りの雰囲気はガラリと変わっていて、高級ブランドのショップが並ぶ、百貨店のようだ。
「……私なんかがこんな高級店様の前を通っていいのかしら。近づくだけで緊張しますな」
普段から美人自慢をしていますが、悲しいかなガワだけだと自覚はしている。この中にも中身の無さを見破る目利きがいるかもしれない。私というブラントを育ててくれた皆のためにも、私は持てる意地パワーを最大にして、歩ききった。
なんかめっちゃ見られてた。
「あれよね。次来るときはサングラスとスカーフは必需品だわ!」
また現れた標識に従い、駅に向かう。
壁に見取り図が張ってあったのだけど、駅を囲ってぐるっと円状に店舗が並ぶ通路がある。さっきのブランド街の反対は食品街だった。そっちを通りたかった……。
さて駅だ。
改札のかっこいいお姉さんにタグをもらう。
「星を出られますか?」
「いえ、宇宙港で知り合いと会って、また戻ってくる予定です」
「ではこのタグは、お帰りの際に返却お願いします」
「はい」
原始的だけど人流管理にはこういうタグが有効だと思う。宇宙を旅する皆が皆、星団政府の管理番号を持っているわけでもないからね。これは初等学校で習うの。
それで、知ってるけど意味が分からないのが、軌道エレベーターを含むこの施設の使用料は無料だ。中のお店は普通に有料だけど、一番お金が掛かりそうなエレベーターが無料。
駅構内に入ると円の中心にあたるところに巨大な柱が立っているのが見えた。透明な壁に何重か囲まれて、それだけで普通の区画じゃない。これに沿ってエレベーターが動くのだから、凄いものなんだろう。たぶんこの設備のほうが世界の本当のレベル。私たちが普通に暮らす分には意識しなくて良い超科学。
面白いことに、発車案内板はわざわざパタパタ風の表示になっていて、普段の鉄道っぽくて安心する。
「次は二〇分後、六番乗り場か」
少し待つな……あ、お土産持って行かなきゃ。
駅の売店でアカリさんへのお土産を物色する。
「何が良いかな~?クッキー?あ、これぐらいなら作ってくればよかったな」
焼き菓子なら私が普通に美味しいものを作ってあげられるから、ダメ。一緒に暮らし始めたら、お菓子とか料理とか一緒に作ったりするのかな~なんてね!
待て待て、どうして一緒に住むことになってるのよ~!
結局なんか暑くなってきたので冷菓にした。
もうじきエレベーターが来る時間、私は六番乗り場にできている列に並ぶ。そこまで混んでいない。
少し待つと昇降機が衛星軌道から帰ってきた。
「これに乗っていくのね、アカリさんのいる宇宙へ!」
かなり広い昇降機の中はケーブルに接する面以外の壁も天井も透明素材。床でさえ一部が透明だ。普通に怖い。
発車の時刻になった。
ベルが鳴り、扉が閉まる。閉まる。閉まる。閉まる。何枚締まるのよ。宇宙って怖いところなんだなと再発見。
昇降機が少し揺れた。地上のロープウェイとかでもあるやつだね、ロックが外れたんだ。
上昇への不安と期待で少し苦しくなる。一瞬照明も暗くなり、いよいよ準備は整ったようだ。
カゴの中のモニターから楽しげな曲が流れ初めて、ゆっくり昇りはじめる。
『皆様方、本日は軌道エレベーターをご利用いただき、ありがとうございます。第一宇宙ステーションまでのひととき、宇宙空間と星が織りなす壮大な展望をお楽しみください』
いつの間にか、地上駅ははるか下に。ゆっくりに感じるけど実際は凄いスピードと聞いた。本当なら一週間くらいかけて昇るところを、一時間かからないんだから、どうなってるんだろ?
「うっ……」
耳の奥がバリッと鳴った。
エレベーターを降りて、宇宙ステーション。駅の改札前の広場。そこは広大な空間。言葉に「宇宙」って付ければ何でも巨大になる。
「競技場より広いんじゃない?」
そりゃそうよ、宇宙にあるのに、私の家からでも見えるんだから、大きいなんてもんじゃないハズよ!
こんな所から……、
「アカリさん、どうやって探そう。イヤ、無理だよね!」




