第85話 レティシアと宇宙ステーション
あの日はほんとうに色々あって、当事者たる私はその場にいるだけで精一杯。
すべてが終わって、寝込んでしまった私が気が付いたのは三日後。
だから、ここからは回想だ。ある程度落ち着いたから、内容も整理しつつ話せると思う。
いろいろと困難があったんですよ……。
私は軌道エレベーター駅の改札前の広い広いエントランスでベンチに座り、途方に暮れていた。
そこには旅客向けの案内板、まもなく出発する便や到着する便のアナウンスがあふれている。
そう、旅のお客さん向けなのだ。すべての情報は。
「ふふふ……困ったわね」
落ち着いてみて現状を声に出すのは良いやり方だと思う。自分が何を問題にしているか、意外と頭よりも身体が知っているものだ。
うん、困ってるのは知ってるの。
何から始めるのが正解なんだろう……
で、こういう時は仲間を見つければいいんだと閃いた。絶対に迷子は私だけじゃない。
観察することは私の得意なことの一つだ。
あった、エントランスを行く人たちの一定数が、あのカウンターで何か質問をしている。
そこにはこう書いてあった。案内所。
見るからに優しそうなお兄さんお姉さんが、ニコニコしながら待っている。あそこに行けばすべて解決するのだ。
しかし私は、ふらふらと優しそうなお姉さんに近づいて行ってしまう足をいったん止める。
質問内容を整理しよう。
「ご用件は?」
「アカリさんに逢いに来た」
ハイ、駄目。訳が分かりません。
どういう質問をされてるか全く分からない。
もう少し観察してみよう。
目的地を知らない迷子もいるかも知れない。
あれは?
案内所のカウンターの隣にモニターの付いた機械を見つけた。ご丁寧にモニターにはクエスチョンマークが書かれている。もしかしたら機械が現在進行形で困っているのかも知れないけど、案内所と同じマークだ。案内端末だろう。
機械にだって呆れられるかも?でも生身のお姉さんに呆れられる方が何倍もキツイ。
私は端末に語りかけた。「?」がかわいいキャラクターの顔に変わる。
「えっと、船が何処に泊まっているか、知りたい」
『船の名前はわかりますか?』
以外と事務的な受け答えだ。「船の名前を教えてよ」とか言ったもっと受けただろう。
「えっと、確か、ハイペリオン号!」
キャラクターが一瞬検索顔になる。「チョット待ってね」と脳内で台詞をあててみた。うん、可愛いぞ。
『該当する船は4隻です。検索語句を増やして下さい』
「あう」
例えば、どんな語句?それを言ってくれると早いのに。あと知ってることと言えば、
「貨物船?輸送船っていうのかな?、船長はアカリさんで」
『該当する船は1隻です』
被せてきた。可愛い顔してせっかちだな。
よし、連れて行ってよ。
『どのような……「そこに行きたいです!」……御用件でしょうか』
早押し!もとい被せ返しだ。
『アポイントはとれて……確認しました』
アポイント!そうだこういうのって相手の許可がいるんだった。どうしよう……。
あれ?今、アポイントとれてるって?どういうことだ。
『西六五埠頭四番ゲートです。ナビゲーションは必要ですか?』
あ、聞いてなかった。聞いていても分からないだろうけど。
「是非お願いします」
自分の端末を案内君に置き、ナビデータを読み込む。自動で地図が立ち上がり、ルートが緑色の線で表示されている。
「ありがとう」
『どういたしまして。また何時でもご相談下さい』
なんて気持ちの良い奴だ!
案内君に背中を押され、私は宇宙港の深部に向かうのだった。
とはいえ、しばらくは商業エリア。食事や買い物ができる一般向けの区画だ。
『冷たいお飲み物、薬局で熱さまし、はいかがですか?』
私の体調を読み取って色んなお店を薦めてくる。
確かに熱くて、ドキドキしている。なんか、気圧差とかで体調崩したかな。ナビが丁度ドリンク店を推してきたので、休んでいくことにした。
「これは、体調悪いとかじゃなくて、アレよね」
逢いたくて、気持ちだけが走って、身体が付いてきたいないんだ。言葉にはしないけど、そういうことだ。
さらに進むといつの間にか人通りは減って、通路はやけに広く感じる。
エスカレーターで何ヶ所か下り、角を曲がり、同じような景色に撹乱されること、十分あまり。
一人ではたぶん帰れない奥まで来てしまったようだ。
『西六五、四番ゲート前です。案内を終了します』
久しぶりにしゃべったと思ったら、ナビが終了した。いつの間にか西六五と書かれたプレートが下げられた通路の入り口まで来ていた。
「来てしまった」
通路の奥は見通せないほど遠い。
この後、どうすればいいのでしょうか。




