第83話 レティシアと戦闘態勢へ移行すべし
足りない。足りないんだ。
アカリさん成分が徐々に失われていく……。補充しないと干からびてしまう。ミイラになっても美人の自信はあるけど、ミイラはイヤだなぁ。
彼の消息を確かめる手段として一番穏便だったフェルディナンドを頼るという選択肢はなくなった。アイツら、カラスみたいに根に持って講義室の周りをウロウロしている。
あとは、いきなり最後の手段。エレナさんに聞く、を使わないといけないか。
ドキドキする……ちょっと通りのバーで一杯やってから連絡とろう。
飲み過ぎて連絡取れなくなると思ったでしょ?いや、酔えないね。いつか断頭台に上るときが来たら酔いつぶれてしまおうって思っていたけど、これは酔えません!
こうなったら勢いよ。……端末を操作してアドレスをだして。
「マスター!私、今から怖い人とお話しするから、カウントスリーよろしく!」
「3、2」
え、はやいよ。
「1、0」
えい!
数回のコール。あ、いないのかな、切っちゃおうかな。まだ五回呼んだだけだけどな。
『はい』
「あ、あの……!」
『エレナちゃんは手が放せないから私がとりました。ハルナと言います。アカリの姉よ、レティシアさん』
ちょっと、勘弁してよ……。
『貴女からは掛かってこないだろうって言ってたから、少し嬉しそうよ。隣にいるのだけど。ご用はなぁに?』
向こうの様子が映し出される。
とても綺麗な、どこか猫を彷彿とさせる真っ白な女性がいた。金色の瞳の瞳孔の形から地球人ではないことが判る。この人が「アカリさんの白猫」に間違いない。
「可愛い……」
『お、レティシアにもわかる?、ハルナちゃんの可愛さが!私の自慢の妹……痛!』
『お姉さんは私でしょう?』
『私のほうが実時間は長くて……』
確かに見た。猫パンチだ。
二人並ぶと結構身長差があって、妹といいたくなるのもわかる。二人の永年のネタなのも。
えっと、この姉妹でいちゃつくのをいつまで見てればいいんだろう。
「こんなことを聞くのは、ちょっと……何ですけど。アカリさんって今何してるのかなって……」
『あの子なら、仕事で出てる……』
『あれ?あんた達まだアドレス交換してないの?』
「エレナさんと会った何日か前から逢えてないので……」
『あの日はまだいたわよ……』
「えっと仕事ってもしかして、宇宙?」
『行き先は言えないけど、そうね。トレジエムを離れてるわ』
トレジエムって、太陽のことだよね。星系を出てるの?それってすごい遠い!?ちゃんと帰ってこれるの?
『何のトラブルもなければ、あと三日もあれば帰ってくるでしょ』
「やっぱりトラブルはあるんですか?」
『あの子は多いね!』
大丈夫かな……あ、また涙が……。
『泣かないの。いつものことなのよ。本人はトラブルだとも思ってないんだから』
「ふえ?」
『レティシアは知らないだろうけど、あの二人は強いよ』
「二人?」
『アカリと宇宙船ハイペリオン号よ。宇宙海賊なんかもやっつけちゃうんだ』
『トレジエムで火の輪くぐりもしてくれたわ』
『私にはね……』
この人達も大概好きだよなアカリさんのこと。
私も負けていられないのだ!
翌日、フェルディナンドの講義室。
私の前に並ぶのはソフィアをはじめとした、序列二位以下の女達。十人は軽く超える。
「謝りに来たの?もう遅すぎるけどね」
女達の中にアイちゃんがいる時点でもう殆どお遊びなのだろう。ホント迷惑。
「私ね、ずっとあなた達のこと不思議に思ってた。勝ち目はないのにどうしてそこまで相手を想うことができるのか。早く乗り換えたほうが良いのに何故執着するのかって」
「和解しに来たわけではないようね……」
「和解?序列とかで自分の気持ちを偽っているあなた達とは分かり合えない。自分の番がくるまで何回も生まれ変わるの?序列の上が死んでいくのを待つの?私は自分の立場を思い知ったの、有利な点なんて何もなかった。でも勝ち目がないからって、想う気持ちは捨てられない。あなた達と一緒だった。だから私は全力で取りに行く。私はそれを言いにきただけ。あなた達は、仲好しサークルごっこで終わるつもり?……じゃあね。サヨナラ」
「レティシア……」
私も結構楽しかったのは事実だ。今日を境に、彼女達は争乱の時代に突入するだろう。それを引き起こした人間に、これからも会ってくれるだろうか。
関係性は自分で取りに行くみたいなこと言っちゃったけど、無理だろうなぁ。
「レティシア!あんたの覚悟と宣言、私達も考えなきゃならないと思う!」
背を向けて離れていく私に、ソフィアが叫ぶ。
少しは悪者になった甲斐があったかな。
これからどうしよう。宇宙に出るかな、私も。
「……だけど今は!ご飯食べに行こうよ!」
……締まらない奴らだ。




