第82話 レティシアと月の首飾り
レティシアはいつも掛けているペンダントを外して、テーブルに置いてみた。
ちょっとよくわからないまん丸の石、見た目ただの小石、が真ん中に付いていて、周りをこれもよくわからない小さな宝石が四つ、で囲んでいる。宝石は四色あって、よ~く見ると中央でうごめく輝きがある。
意匠としては流行りではないだろうけど、シンプル寄りだしキライではない。
「不思議と言えば、不思議なシロモノだ」
私はこういうペンダントを買ったことはないし、現実世界でもらったことはない。あの不思議な夜、多分お月様本人からもらったのだと思う。
私が毎日これを付けているのも不思議なことの一つ。
「なんだっけ、名前を見つけて呼べ?だっけ」
面倒なことこの上ない。
月頭さんは先住民の遺跡を調べろと言っていた。古代遺跡と言えば自由大学のフェルディナンド先生だ。
ただでさえアイちゃんの結婚騒ぎで恋愛落伍者たちが異様な雰囲気になっているのに、ここで私がフェルディナンドを訪ねていけば大騒ぎになることは目に見えている。マリーお姉さまにはこの事話してないから同行してもらうのも気が引ける。
「無視してもいいけど、なんかプレッシャー掛けられている気もする」
石が圧を掛けてくるなんてあり得ないけど。
「ああ~怖いけど、先生が一番手っ取り早いな。石ころにプレッシャー掛け続けられるのも癪だし、いくか」
なるべく地味な服で行こう。目立つこと、アピールすることは死を招く。
自由大学の講義室。フェルディナンドの準備室と繋がっているそこは、有志のたまり場になっている。
「お、おはよう……」
「レティシア、おはよう。講義もないのに珍しいね」
「あははは……ちょっと、先生に用事があって……」
瞬間的に講義室が殺気立つ。窓の外の鳥たちが逃げていき、準備室のフェルディナンドも何か落としたみたい。
「違うのよ、そういう話じゃなくて、ちょっと遺跡関係で聞きたいことが……。違う、抜け駆けじゃなくて!」
そう、私は隠れ序列ナンバーワン。彼女たちにとっては敵そのものだ。
「そういえば、いつもと違う雰囲気の服装ね……。イメチェン狙い?」
「レティシアって遺跡に興味なかったはずよね。どうしていきなり聞きたいことが出てくるの?」
私たち昨日まで楽しく笑っていたよね?報われない恋愛って、ここまで人を狂気に駆り立てるの?
「わかったわ。でも私の件もそうそう言い触らして良いものでもないの。だから誰か一人付いて来て、私に妙な動きがないか、監視すると良いわ。誰か決めて。「友人の相談に付き添ってくれる優しいレディ」を!」
さあ!戦いだ!
私は瓶のドリンクを買ってきて傍観者。たまにやってくる乙女に理由を話すと、彼女らは次々に戦いに身を投じていく。おい、どうしてアイちゃんも参戦してるんだ?
結局は「アイ狩り」になってしまって結果はうやむや。
「私がついて行くわ、構わないわね」
と序列一位のマリーお姉さまが宣言したことにより収束した。
「先生、マリです。入りますね」
姑息にもこの女、先生だけ特別にいつもと違う呼ばれ方をさせている。
「ああ、マリさんどうしたんだい?」
「この子、レティシアが先生に質問があるって」
この受け答えの慣れ具合よ。外の連中も、もう勝ち目ないって諦めればいいのに。まあどうでも良いけど。
「先生、月関係の遺跡ってありますか?月って古代人はなんと呼んでいたんですか?」
あんまり関わり合いたくないので、早口ですべてを質問した。
「なるほど、良い着眼点だ。どうしてそれが知りたくなったかはあとで聞くとして」
マリー、先生が見てるぜ?睨んでるとこ見られるぜ。
「月関係と推測される遺跡は確かにある。そして、古代人が文字を持っていたのは確かだ。解読も殆ど済んでいるけどね……」
良し!
「発音は分からない」
思わずYOSHIMOTOしそうになる。
「そうだろう?君達もこの文字がどう読むかなんて、習うまで知らなかったはずだよ」
外国語の修得でよくあるやつだ。文字列として意味は分かるが、読めない。そっか、仕方ないな。迷宮入りってことで!
「で、君はどうしてそんなことが聞きたかったんだい?」
やっぱり聞きますよね~。情報を貰うだけでは駄目か。
「このペンダントをくれた人が、名前を想い出してくれって、頼んできたから。プレッシャーも凄いんで」
首に掛けたままのペンダントをフェルディナンドに見せてみた。おお、食いつくね。あ~近い、近い!
「君はアレだね。僕の知っている冒険者と同じだね。遺跡ハンターの素質があるんじゃないかな!」
興奮した先生が余りに近づくものだから、マリーは私を部屋の外に投げ捨てた。そんなだから、先生が私に興味を持ってしまったと気付かれて、準備室からも追い出されれた。狭量な奴らだ!




