レティシアと神託のグリーンヒルズ(12/20)
魔境グリーンヒルズ。
黒魔術に傾倒した建設家が、悪魔を召還するために描いた魔法陣だとか天然のダンジョン上に造られた街だとか言われてしまう街。
私はこの街が嫌いではなかった。むしろ最近は好きなくらいだ。何故なら、新米の配達員がよく道に迷っているからだ。
今日もいい天気。青い空に目が痛くなるような真っ白なノースリーブのいかにもなワンピース。
なじみの店でレモネード白ワイン割りを購入すれば立派な徘徊美人の出来上がりだ。
ちびちびとレモネードを呑みながらゆっくり坂を上ると、今日も可哀想な配達員さんがいた。
「アカリさん、こんにちは」
「……レティシアさん。こんにちは」
「また迷っているんじゃないかと思って、助けにきましたよ」
「まあ、迷っているんだけど、なんと言ったらいいのか……可愛い服だね、すごく似合ってるよ」
「そうでしょう?かなり狙って選んだの」
「ここまで歩いてきたのかい?」
「ここに来れば、助けを求める者に出会えるであろうって神託が降りたの」
「君の家から、かなり遠いよね」
「私、歩くの苦にならないから。さあ迷える者よ、悩みを打ち明けなさい」
私は優しく微笑みかける。どうだこれが私の全力だ!
「……アカリさん?」
「ごめん、見とれてしまっていた。えっと、五七区画にいけない。僕を導いて下さい」
私の手を取って跪くアカリさん。ギャー!
「い、いいでしょう。私の言うとおり行くのですよ」
何のプレイだコレ?恥ずかしいよぅ。あ、そこ右です。そこは真っ直ぐ。違うって、どうして左に行きたがるの?そこも真っ直ぐだよ。
「ほら着いた」
「ホントだ。何でだろう?」
「ではさようなら~」
「待った!」
今日も華麗に逃げるつもりが、腕を捕まれた。
「交戦規定は!?」
敗残兵を追わないで!こうなったら最後の手段。
「アカリさん、痛い」
ぜんぜん痛くないけど。
「あ、ごめん」
緩んだ!よしチャンス!レティシアハイパーモード!このモードは一分間だけ通常の二倍の力を出すことが出来るのだ!
「お礼を!」
一瞬の隙をつかれた!
「お礼をしたいんだ。逃げないで」
「これ……捕虜の扱い……」
「捕虜はこっちだって……」
アカリさんが捕虜?私はそんな起死回生のスーパープレイを出したかしら?アカリさんが意味不明のことを言うから、私はすっかり落ち着いてしまった。すっかり氷が溶けてしまったレモンサワーの残りを飲み干す。
「レティシアさんのお陰で配達も済みそうだし、時間も丁度良いから、この後お昼ご飯に行こう」
「……もしかして誘われてます?」
「そうだよ?それともこの後用事……は無いよね?徘徊にしては、可愛く決めてるけど?」
「むー!」
残念ながら今日の用事はこれだけだ。
「迷える者を救うために出てきたのです、意地悪は言わないで下さい!可愛いってホントですか?アカリさんのために着飾ったんじゃないんだからね!頑張った甲斐があって嬉しいです!」
「じゃあ決まりだ。待ってて、すぐに渡してくる」
今のをどう取ったら肯定になるのか、まあ肯定だけど。彼は荷物を取り出すと届けに向かった。
どれどれ?仕事ぶりを拝見……。
「あら、レティシアちゃんじゃない、久し振りね」
え?誰?
「小さかったから覚えてないかな?お母様はお元気?」
「は、はい」
お母さん……そう言えば、しばらく合ってない。
「それでは失礼します、ご利用ありがとうございました」
お母さん、お父さん、お兄ちゃん。
「お待たせ。どうかしたかい」
「……」
「お知り合いだったみたいだね」
「たぶん、お母さんの」
何か忘れていないか?
「レティシアさんはあの家にご家族で住んでいるの?」
「うん?あそこは独りで住んでる」
「ご家族はどちらに?」
「実家は街からはだいぶ離れてるんだけど……それよりもいいんですか?お仕事の二輪車に女の子乗せて走っても」
今思い出さないのはどうでもいい事なんだろう。私は話を強引に変えた。
「構わないよ。酔いつぶれていた君を、介抱するため近くの病院に向かうところだった、って言えば」
「バレてる!?」
「さあ行こう!乗って!」
ヘルメットを渡されて、二輪車の後ろに座らされる。
「どうしてヘルメット二つもあるんですか?」
「君を見かけたら誘おうと思って、準備してたんだ」
きゃー、レティシア的言われて痺れる台詞ベストテンだわ!カッコ良すぎる!
「僕にしっかり掴まって、ってあんまり掴まるとその……」
「これでいいの、いろいろ言わない!」
今日は乱されっぱなしだ。こんなはずではなかったのに。
だから仕返しに女の子の柔らかさをたっぷり教えてあげることにした。




