レティシアとわんわんわんだふる!(9/20)
物語において、あらゆる労働はトラブルのもとになるだろう。それはフルタイムでもパートタイムでも同じことだ。
「わんわん」
特に働く必要もない時代なんだから、わざわざそんなトラブルの元に首を突っ込む必要はない、ホントそう思う。でも何かの都合で自分が出来なくなったとき、代わりに誰かにお願いしたい、ということがよくあるのも事実。
「バウバウ」
そればっかりが理由ではないけど、サントルの街ではかなりの割合の人が何かしら働いている。私だって、モデルの仕事をやっているんだから。
「ワフワフ」
で、今日はワンコズの散歩代行をやっている。
犬か猫かで言えば断然猫派の私。で、聖典であるMANGAによると、多頭の散歩代行はトラブル率百パーセントだ。そんな仕事を引き受けてきたマリーとソフィアはそろって風邪を引いたとか。何やってんのよ。ナニ……はしてないよね?
イカンイカン。
引き受けたからには完璧にこなそう。
中型犬が三頭、体格の比率から見ると容易に私が振り回されそうだが、序列確認も含めその辺りの躾は会って10分で済ませてある。絶対的ボスは私だ。心配していた飼い主さんも安心したでしょう。フン処理ロボも貸してくれて、MANGAジンクスは発生する余地もないほどの楽な仕事だ。
「あんた達、楽しそうに歩きなさいよ」
三頭ともが尻尾をやや内巻きにして、後ろの私をチラチラ見ながら歩くから、なかなか進まない。
「違うでしょ?尻尾立ててフリフリしながら歩くんでしょ。あんた達が楽しいときって」
どこまで失礼な犬たちなんだろう。確かに力勝負では圧勝したし、威圧ではチビらせた。界隈ではやんちゃな子たちと聞いていたので常時威圧を放っていたが、もしかするといらないのかもしれない。
私が威圧を解くと、あからさまに犬たちがほっとした様子で、尻尾をパタパタさせ始めた。
やっと普通の歩くペースで散歩が再開された。
おとなしいものだ。
他の犬とすれ違うときは少しリードを引っ張ってやるといさかいを未然に防ぐことが出来る。
守ってもやらねばならない。向こうが突っかかってきたら、レティシアスマイルに隠して犬を睨みつけてやる。
「ただ歩いているだけと思ってたけど、なかなかに細やかな指示が必要なのね。散歩侮れない」
土手コースが終わり、ここからは市街地にはいる。
車が増える。慣れない組み合わせでは、危険度が高いエリアだといえる。ここは可愛そうだが、威圧を……。
突然犬たちが何かに怯える。
「何!……この気配は」
ウソ、気配なんて分からない。でもわかるのは……。
「アカリさん!」
すてきな笑顔。手には小さい箱。お仕事中ですか、実は私もですよ。
「レティシアさん、犬飼ってたっけ?」
「いえ、今日は散歩代行の代行です。……アカリさん、犬苦手ですか?」
アカリさんは犬たちを警戒している。両者の間に緊張感が張りつめているのが見えるようだ。
「苦手というか、僕は猫派なんでね。犬とは相容れない。それだけだよ」
いや、めっちゃ警戒してますよ。
「わ、私も猫派なんです!」
「そうなんだ!」
「実家に綺麗な白猫がいて、もうすごく可愛くて!私だけは撫でさせてくれるんです!」
犬なんかほったらかして猫トーク。幸せ。
「……白猫」
アカリさんも白猫好きなのかな。
「僕の白猫は、撫でさせてくれないけどね。すごく綺麗で可愛いのは激しく同意だ」
それ、ホントに猫のこと?
私たち、猫トークしてるんだよね?
「アカリさん、猫の、話ですよね?」
「ん?もちろんだよ」
なんかモヤモヤするけど、お互いこれ以上は仕事に支障が出る。また必ず逢いましょうと約束して、別れた。
絶対さっきの、猫っぽい何かの話だ。どうしても暗黒面が滲み出してしまう。
ゴメンな。君たちには可哀想な散歩になったね。正規料金はもらうけど。




