↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
53/80

レティシアと再会(2/20)

「絶好のマラソン日和だねぇ」

 給水ポイントに置かれる一般参加者用のドリンクを、車に積み込みながら言うのはソフィア。

 ちょっと調子に乗りやすいし、毒も軽口も吐くが良い子だ。

「去年は救急出まくったからね……さすがに夏場にはもうしないでしょう?」

 同じく車に荷物を詰め込むのはマリアンヌ。

 毒も吐くし厳しいのだけど、いつも私のことを心配してくれている。まあ相談するならこの子だ。

「レティシアはこっちじゃないでしょ?」

 そして私はレティシア。この星で2番目の美人だ。

「あ~またなんか変なこと考えてるよ。ほら早くアイを手伝ってきなよ」

「レティシア、最近ボーっとしてること多いけど「また」具合悪いの?」

 そんなことないよ。むしろ上機嫌。ただ……もう逢えない確率の方が高いと思うと、落ち込むねぇ。

「ニヤニヤしたと思ったら落ち込んで、大丈夫か?」

「うん、大丈夫。行ってくる」

 大丈夫ではないんだけどね、前みたいな暗い気持ちじゃなくて、キュッてする気持ち。

「また泊まりに行こうか?」

「お断りよ!」

 私の断固たる拒絶にソフィアはニヤリと笑い、マリーはほっぺを膨らせて怒ってる。可愛い奴らだ。


「アイちゃんごめ~ん、向こうでサボってた~!」

「正直なのは好ましいけど、堂々と言うことじゃないよ」

 アイちゃんは毒は吐かないしいつも優しいし、可愛くてすごく良い子だ。カレピッピと一緒でなければね。

「今日のお昼は、ここにお願いしてるから、開店時間になったら確認するの忘れないようにって。私も気にしとくから、レティシアちゃんもね」

「へえ、宇宙ステーションのお弁当屋さんなの?わざわざ」

「他の所もういっぱいだったみたいなのよ。ちょっとお高いみたい」

 私ならニヤリと笑うところを、実に可愛らしく笑うのだ。羨ましい!


 マラソン大会は朝から始まっていて、距離の短い順にスタートが進み、さっきフルマラソンがスタートした。フルマラソンとは言うけれど、コースが自然の湖を周回するから、実際は60キロ以上ある。

 実は私も出たかったんだけど、去年は色々あって、いつの間にかエントリー期間を過ぎていたんだ。

「とにかく、ハーフがゴールしてくる前に片付けと設営だよ」

「だね~」


 ハーフマラソンの選手は無事に全員ゴールして、簡単に片づけてお昼休憩だ。

「そろそろ来るかな?」

「グルメとしては楽しみですか?」

「へへ……」

「私着替えてくるから、お弁当屋さん来たら案内お願いね」

「任せろ!」

 

 待つ時は、時間が過ぎるのが遅い。10秒毎に外の気配を探ってる。

 そして。

「すいませーん。お弁当の配達ですけど、どこに置きますか」

 時は来た!テントの外から声をかけるのはお弁当屋だ!焦るな、レティシア!

「はいはい、お疲れさまです、お弁当はですね……あ!」

「あれ?君は」

「イチゴの人!」

 ちょっと、聞いてない!え、何それ!嬉しい!どういう偶然?ギャー、私ジャージだ~!

 全く可愛くもない臙脂色のジャージ。昔のだからサイズが少し合ってない。ボサボサ髪は猫ちゃんの髪留め。耐汗のお化粧はまだ耐えている。胸の月夜のネックレスに彼の視線が一瞬向く。

「あ……。どうも、お元気そうで」

 何それ、三日振りに逢うのに、貴方は嬉しくないの?

「レティシアですよ、……憶えてないの?」

 彼が余りにもボーッとしてるから、少し腹が立ったので、少し拗ねたように聞こえてしまったかもしれない。

「……憶えてるけど、名前はお客さんの個人情報だし、嫌でしょ?気味悪くない?」

 なる程、大人だ。

「全然!むしろ呼んで下さい!」

「……レティシアさん」

「はっ、はい!!」

 わ、私は何を言ってるんだ!そして彼に名前を呼ばれる感覚は、なんかそれだけで気持ちいい……。

 なんでか二人でしきりに照れてしまって、甘い雰囲気……。

「あ、お弁当屋さんが来てる」

 彼の背後から声がかかるけど、なんのことかすぐにはわからなかった。

「レティシアちゃんが対応してくれてるのね」

「あ、アイちゃん!」

「こんにちは。お弁当をどこに置けばいいかをこの方に聞いていたんですよ」

 何でそんなに切り替え早いわけ?

 さっきのあの雰囲気は私だけが感じていたの?

「……レティシアちゃん、代わろうか?」

「大丈夫!私が案内するよ。こっちだよ!」

 彼と話していたアイちゃんが急に話を振ってきたから、私はとっさに彼の腕を取ってテントの外へ連れ出してしまった。

 彼が少し握り返してくれたのが、嬉しい。


 ど、どうしよう。

 特に考えもせずに手を繋いで出てきちゃったけど、行き先も、手を離すタイミングはノープラン!手汗が……!

「あの、レティシアさん」

 うわっ!

「この車なんだけど、どうしよう」

 しまった。びっくりして手を離しちゃったよ。

 え、車?……そうだお弁当を運ばなきゃだった。

 男の人と手を繋いだことなんてなかったけど、思ったより柔らかくて、でも力は強くて、温かくて。感覚が消えていくのがすごくもったいない。

「搬入はスタジアムの裏口なんですよ、ちょっと遠くて分かりにくいかもと思って……」

 もう少し一緒にいたいな。

「ありがとう……。その、君が良ければ、裏口まで案内してくれるかな……レティシアさん」

「ハイ!」

 でも、車ってコレ?

 ホネホネじゃん。決して格好いいとはいえない。数ある車の中から、何故こんなのを選んだんだろう。

 ドア、というか……バーを上げてもらって、頭も気をつけてもらって、エスコートとしてはぎこちなさもなく慣れている感じ。

 彼も運転席、どちらかというと操縦席かな、に座って慣れた手付きで準備する。車ってそんな色々操作しないと進まなかったっけ?


「すまないね。持ち場を離れされてしまって」

「良いですよ。もう皆スタートして、帰ってくるのは夕方くらいですから」

 それはホント。夕方どころか、最終ランナーが帰ってくるのは恐らく夜だ。私たちの出番である片づけはそこから。暇で仕方ない。

「何のイベントなんだっけ」

「マラソンです。横の湖を一周するの」

「元気だね~」

 何となくこの人も私と同じ、難なく走りきれてしまう人種だと思った。

「出すよ」

 ホネホネ車はゆっくりと進みだした。

「なんか変わった車ですね」

「宇宙用だからね」

「ウチュウ?」

「うん」

 確かに世の中は宇宙時代だ。頭上にいつも見えているのは宇宙ステーションだし。この星は星団政府直営の13星系の1つ、トレジエム星系の第四惑星だ。

 でも、すべての人にとって宇宙が身近になったわけじゃない。私にとっては知識だけで現実的ではない世界だ。この人は、そこから来たの?あ、名前。

「ところでイチゴの人さん。名前まだ聞いてなかった」

「イチゴの人って。そうだね、僕はアカリ=ヴェッソー、宇宙の配達屋さんだよ」

「アカリさん……」

 アカリさん。

「ちょっと言いにくいよね」

「そんな事無いです、素敵です」

 むしろ連呼したい。人の名前を呼ぶことが、こんなに素敵だなんて初めて感じた。アカリさん。

 

 裏口が見えてきた。

 しまった。私案内してない。

「ここです。着きました」

 元々案内不要なところだし。

 搬入口に付けると、アカリさんは私の側のサイドバーを外しに来てくれた。「ゆっくり降りてくれて良い」と耳元で!ささやくと、すぐに荷台から次々に弁当を運び出す。腰抜けそう……。

「お疲れさま、レティシア」

「マリーも」

 なかなか車を降りられない私に、マリーが近付いて声をかけてくる。ニヤニヤ笑いが下品よ、マリアンヌちゃん!

「意外と早かったね?アイの報告の内容じゃもう少し時間が掛かるみたいなだったけど。あのかっこいいお兄さんと話し込んでくるのかと」

「ええ!?そんなんじゃないよ。ちょっと知り合いで……」

 


「はい、終わりました。確認して下さい」

 マリーがここの係だ。

「はい、注文通りです。ご苦労様でした」

 マリーとアカリさんは事務的に握手する。

「じゃあ僕はこれで。レティシアさん、今日はありがとう」

「あ、はい。アカリさんもご苦労様でした」

 アカリさんは私だけに聞こえるように、

「ここのお弁当は宇宙港でも有名でね、凄くおいしいから、お昼が楽しみだね。それじゃあね」

 と顔を寄せて話す。

 近い、近いです!この人、女性慣れしてる!

 私が動揺しているうちに、アカリさんはこの前みたいに去っていってしまった。

 

「あのお兄さん、格好良かったね~」

「ええっ!」

 私が余韻を大事にしていたのに、マリーが無粋な声をかけてくる。やっぱり皆そうだよね……カッコいいよね。なんかヤだな。

「姿勢がシャンとしてるね、うん。あれ?レティシアちゃん焦った?取られちゃうと思った?」

「……そういうのではない」

 ないことはないが。

「大学にはなかなかいないから、ああいう人。軍人さんかな?」

「えっ……」

 宇宙、軍人さん。

 私とは世界が違う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。