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レティシアと月頭さん

 月明かりが綺麗な夜だったので、散歩に出た。

 二人は疲れていたのか、いつもより早く部屋に戻ってしまった。散歩に行くからとメールはしたけど、返事はない。眠ってしまったのだろう。

 やけに静まりかえった街。犬の声も虫の声もしない。川の向こうに見えているはずの街灯りも見えない、土手の道沿いにある街灯も点いていない。

 それでも歩けているのは、月明かりが眩しいくらいに照らしてくれているから。


 河川敷に降りる階段、私の特等席に何かが立っている。二本足に腕も二本頭も一つシッポはない。でも人間っぽく見えないのは、頭のパーツが真ん丸お月様だから。

 民族衣装のように色とりどりの紋様が描かれて、シルエットはタキシードのよう。単なる変質者にしては奇抜すぎる。

 私の視線にどうやってか気づいた彼は、シルクハットのような深めの帽子を被り、顔を隠す。

「この衣装はね、この間ここに来たときに、町の人からもらったのさ」

「私、初めて見ます」

「そうだろうね。僕も君たちのような生き物を初めて見るし」

 私もな。

 私の方が多数決の意見だと確信できますよ。

「私、レティシア。月明かりが綺麗だったので、お散歩中よ。あなたはだぁれ?」

「名前か。今は「月」くらいにしか呼ばれていないみたいなんだよ」

「そうなのよね。どうして素敵な名前を付けないのか不思議なのよ。今夜の月はマカロンみたいに綺麗で美味しそうなのに」

「私は美味しくないよ」

 そんなにビックリしないでよ。食べるわけないでしょ。

「マカロンってこれよ」

 なぜかポーチに入れて持ってきた黄色いマカロンを取り出して、月頭さんに持たせる。

「なるほどね。確かに似ている。これが今の私を模したお菓子ということかい」

 私達二人はいつの間にか階段に座り込み、話している。

「違うわ。お月様のイメージで作ったお菓子は別にもっといっぱいあるはず。でもね名前がないから、みんな「ルナなんとか」になっちゃうの。そうね、私達は他の星から来たから、この星の神様に遠慮して、名前が付けられないんだわ」

 きっとそうだ。こんなに住みやすい星、遺跡もあるような文明。月が神様扱いされているのが普通だろう。そのときはなんて呼ばれていたのかな。

「あなた、神様なの?」

「違うよ。自分はもう少し理性的な存在だと思っているよ。存在としては、君たちと大差ない。神様には助けていただいたり、……少し困ったり。ね」


「さて、そろそろ時間だ」

「そうなんですね」

「マカロンありがとう。きれいななお菓子だ。……お返しにこれを」

 月頭さんは小さな石が付いた細いネックレスをかけてくれる。

「私がなんて呼ばれていたかは、友達が遺してくれた建物を調べたら、どこかには書いているんじゃないかな」

 ……そこまで気にしてないんだけどね。

「……是非調べてほしいってことだよ?それでまた名前を呼んでほしい」

「分かりましたよ~。頑張ります」

「うん、また逢おうね、美しいレティシア」

 街の明かりが戻ったかと思うと、彼は消えてどこにもいなかった。


 家に帰ると、二人は変わらず眠っているみたいだ。

 コーヒーを入れて、ポーチから残りのマカロンを取り出す。部屋の灯りを消すと、天井の斜め窓からまだ満月が見えていた。

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