レティシアとカレーは食べ物
思いのほか打ち合わせが長引いた。
と言っても私が発した言葉は「嫌です」「その手に乗りません」「ヤーダ」のみ。
写真館のスタッフが何ヶ月かに一回、私の写真集を出そうと言い出す。
私も出したら売れるとは思ってるけど、そんな気にはならない。この前は「私の美しさは皆のものだから売り物にはしたくないの」なんて言ったら、じゃあ無料配布で。とか言い出したので、今日はもう断るだけ。だってなんだか嫌なのよ。
身体は疲れていないのに精神は消耗した。こんな時は、スパイシーで元気になりたい。
ということでカレーだ。
このお店のマスターは面白くて、店に出るときは白い布を頭に巻いて、片言つまり上手ではない話し方をする。普段は普通に話す美人のお姉さんなんだけど、店の演出にはこだわるのだ。
私はカレーという料理は、シチューやボルシチの仲間だと思っている。それらよりはスープ寄りだが、同じ括りだ。すなわちパンに浸す。ライスにかけるのもアリだとは思うが、馴染みはない。カレー自体がそう食べるものでもないしね。
「……そうね。赤いのは絶対辛そうだから、緑ね。お肉はチキンで。それとナンは……三枚よ」
「レティシアチャン、イツモノ、ハ?」
「フフフ。「いつもの」だから言わないのよ。おねがいしますね」
「ヨロコンデ!」
何か間違ってるとは思いながら、運ばれてきた冷たいビールで突き出しを頂く。
アジの南蛮漬けね、知ってるわこれ。カレーと違う国の食べ物よ。好きだから良いんだけど。
ナンが焼きあがって、器に入ったカレーと一緒にプレートに乗って出てくる。
緑はなんかハーブのさわやかな香り……だと思ってたけど、絶対違う。やべぇ香り。もう汗が出てきた。
「おねーさん、これ何の緑色?」
「コレハ、ハラペーニョッテイウスゴクカライ……大丈夫?替えても良いんだよ?」
私はゆっくりと首を横に振る。
「ビールを」
ナンを大きめに千切って、カレーに浸ける。
チョンだチョン。
「ん?意外と辛くない?」
多めにチョン。
「あ、いけるいける」
スプーンで鶏肉を探して、
「すっごい柔らかい!」
ナンもあっという間になくなった。これは予想通り。
「おねーさん、ナン二枚下さい。チーズで」
汗が……止まらないわ。
「はい、チーズナン焼けたよ。それとタオルね」
「ありがとー」
「すごい汗ね」
おねーさんが冷たい水を置いてくれる。
「いや~、汗だくの美人って、色気がすごいね。おねーさん、見ててドキドキしてくるよ」
「そうかな?」
カランカラン
お店のドアを開けて新しいお客が入ってきた。
「イラッシャイマセ~」
「四人だけど空いてる?」
「ガラガラダヨ。オクノテーブルガヒロイヨ」
若い男が四人か。声が大きいのでちょっと苦手だけど、本人達はその辺り弁えているようだ。
どこかで聞いた声だ。
「あれ?レティシアじゃないか」
呼ばれて振り返る。
「あ~君は、ジャーヴィだったかな」
「おう、釣り以来だな」
そんな彼らはお揃いの制服だった。
「みなさんお仕事この辺で?」
食べながら失礼しますよ。あと、汗も拭かせて貰いますよっと。
「……ああ、俺たちはそこの訓練施設で……」
ふー。あっつい。
「訓練って?」
「……あ、俺たち宇宙軍のパイロットでね……」
「コラコラ、オニイサンタチ、アンマリミルモンジャナイヨ。まあ気持ちは分かるけどね~タマランよね」
あ、ジャーヴィ達が黙り込んだ理由は私か。
「……あんまり見ないでもらえるかな。恥ずかしい……」
ここで恥じらいを入れておく。
「ゴメン!」
「フフ。良いよ良いよ。ギルも君も恥ずかしがりだねぇ」
器に残ったカレーは最後のナンでふき取る。この最後のナンをを残せるかどうか。これが難しい。
「ごちそうさま~」
「ドウダッタ?」
「最高に美味しかった!タオルもありがとう、洗って返すね」
「いいよ、まとめて洗うから」
「さて、帰ってシャワーでも浴びるかな。では皆さんいつも防衛ありがとうございます。おやすみなさい」
私は右手でぴっと敬礼をしてみせる。何式かはよく解らないけど。
「うわぁ、下着までビチャビチャだ……」
店を出るときに歩きにくくて、つい口走ってしまった。
「レ、レティシア!」
なんかジャーヴィが怒ってるが、知らんがな。




