レティシアとサイクリングヤッホー
みどりの風もさわやかに。
湖畔のサイクリングロードは、風が通り抜けて、同じ街中とは思えないくらい涼しい。
「涼し~い!」
でも私は常に上をいく女。
星都の郊外にある微妙な大きさの池「大きな池または小振りの湖」を周回するサイクリングロードで私は風になっていた。
マラソンコースよりも外側の自転車専用道路は、設計者がよほど自転車好きだったのか、一周50キロメートル程あるのだけど、交差点は無し、歩行者も通れません、さらには惰弱車、普通車、暴走車それぞれのレーンが色分けされている始末。外回りと内回りのコース長が同じになるように立体交差まである。
この街の設計に関わった人って、多分異常者が多いわよね。
既に自転車で進むときに発生する風と自転車を漕ぐときに身体から発生する熱のバランスを把握した私は当然暴走車レーン。惰弱車なんて視界に入った次の瞬間には追い抜かしているわ!
体内のレティシア炉でパワーは無限に沸いてくるんだ。天気のせいか本気で走ってる人は私の他にいない。貸切状態でストレスフリーなこともあって、もう相当走っている。そりゃもう、異常なくらい。三周目だ!
さすがにお尻が痛い。あとお腹空いた。
お尻が痛いと気づいてから、無性に痛く感じるようになってしまった。同じ所で座っていられないので、何漕ぎかに一度位置を変える必要がある。
そうなると途端に速度は落ち、パーフェクトな風が来なくなる。
「あっつい!」
しかし一定以上速度が落ちれば、表示灯が煽ってくる。
『低速車はグリーンレーンへ』
グリーンだと?私に惰弱車と同じ道を走れというのかっ!心無き表示灯であろうが、生まれ付きの強者である私に言ってはいけないことがある!
怒りのあまりアドレナリンが異常分泌される。もはや暑さもお尻の痛みは感じない。
景色は流れる色が混ざるだけのものに変わる。真の速さには美しさは不要。速いという事実だけがあればいいの。私が速さのその先に到達した瞬間、色も音も消え失せ、感覚が拡張された世界にたどり着いた。
これがZの領域……!
私にはマシンの全てが解っていた。それだけじゃない、私を応援してくれる人の心も流れ込んでくる。
みてて、マリアンヌだけど私達にはマリーって呼ばせてて先生にはマリさんと呼んでもらってる人!
全てを理解する今の私には次のひと踏みでチェーンが切れることもわかってしまう……。
あ、ヤバい。
踏み込みが空かしてバランスを崩す車体。切れたチェーンが後輪に絡まってタイヤが無理矢理ロックされた。
このまま一緒に倒れてしまえば、身体半分削れてしまう。
私は焦らず立ち漕ぎに移行すると、自転車が倒れようとする方向の足を抜き、その足でハンドルを地面にたたきつける!
「あわわわわ……」
自転車サーフィンだ。道路と自転車に大きなダメージを残して、停止する。
マジ怖い。なんだ今の身体能力は。とっさの時に動ける方がそりゃ良いに決まってるけど……。
私が呆然としていると、マリーが駆け寄って来た。
そういや、一緒に「サイクリング」に来たんだった。
「何でアンタはいっつもこんなバカなことを!大丈夫?怪我してない?どこか痛くない?」
ゴメンねマリー。私、安定のバカさだったわ。
「ごめんなさいイイイイッ!」
自転車から降りようとする私の臀部を激痛がおそった。
「レティシア!」
「お尻が!」
「ハァ?」
「お尻がすんごいヒリヒリしてジンジンするの……」
「ほんとにバカなんだから……」
自転車のレンタル屋さんには素直に謝った。
でも、記録を作った車体だからこのまま展示するとか?え?星団新記録?人力ゼロスタートの自転車最高速度記録ですか。112km/h?凄いね……。




