レティシアと揚げたてのコロッケは正義
私は今、行列に並んでいる。
星都サントルでも行列ができることは珍しいことではない。動物園とかアトラクションとかに並ぶ人の列は、ニュース映像でもよく流れている。
珍しいのは、私が並んでいるという事だろう。徘徊人は基本並ぶのは嫌いなのだ。
「昨日の自由大学のコロッケが酷くてね、どうしても美味しいコロッケを食べたい口になってしまったんだ。一晩経っても、治まらない。むしろ悪化している」
この情けなく意地汚いコメントをしているのは、最近知り合った男性で、ギルバートという。
「ギル、貴方と一緒にされては困るわ。私は純粋に美味しいコロッケが食べたいの」
「ほら、進んだよ」
「あ、うん」
今の瞬間は、ギルの方がコロッケへの情熱が勝っていた、悔しい。
ギルバートとは偶然一緒になった。私が先に並んでいて、後ろから彼が来たのだ。
ものが数分で揚がるものだけに、行列は長くてもそこまで時間はかからなかった。
「おじさま、牛2つと、クリーム2つ。ギル、あなたは」
「あ、牛2つ……」
「あいよ!お代は別かい?」
「一緒で、僕が払おう」
「ステキね。ギルバート」
せっかくなので公園のベンチで一緒に食べることにした。
「コロッケのお礼にはこれをあげる」
乙女のショルダーバッグから、冷え冷えのレモンサワーのビンを取り出す。
「あ~レティシアっこういう子なんだね」
この前は飲まなかったらね。海に落ちたら危ないし。
「イメージ崩れた?私、美味しい食べ物と美味しいお酒が大好きなの」
「別にそういうことはないけど。思ってたより遙かに自由な人だと思って。それに君は何をしても映えるから」
「ギル、本当の事言っても、お世辞にならないのよ」
「なる程、それは照れ隠しか」
むう、調子狂うな!そりゃ誉められたら嬉しいし照れるさ。
「食べましょう!」
話は強引に打ち切り、コロッケを一口かじる。
さくっとした歯触り……。
「あふっ」
熱くて、口の中でハフハフしていると、ポテトの甘さがゆっくりと伝わってくる。
ギル!すごいポテトが甘いね!そのままの甘さよこれ!私は視線でギルバートに感動を伝える。
たぶん牛肉のうまみがポテトの味を強調させている。もう一口。大きめの牛肉が現れた!大きすぎず、肉を食べていると分かるの大きさ程度なんだけど、私には丁度良い。コロッケはどの具材が主張しすぎても駄目。
半分かじったら、冷え冷えのレモンサワーを流し込む。口の中に残る熱でレモンの香りが口いっぱい広がり、程良い炭酸が脂分をリセットしてくれる。
私達は夢中で一つ目のコロッケを平らげた。
「美味しかったね!すごいね!」
ああ、語彙のなんと貧相なことか。でも「うまい」の一言で幸せは伝わると信じている。
「ギル、クリームは一個ずつね」
クリームコロッケは私の中では不思議料理の上位に入る。サクサクとトロトロが両立するの。理解が追いつかない。
俵型の、横からかじると事故になる。軸方向に食べるのが比較的安全だ。残念ながら安全を気にしていてはコロッケを食べることはできない。
私達は同時にかじりついた。サクっとして……
「んー!」
事故だ!クリームが大流出だ!ヤケド覚悟でクリームが流れでない程度まで急いで食べる。
「あっつ、何これ凄いトロトロね!」
お行儀は悪いけど、指に付いたクリームを舐めとり、残りの部分を食べる。
「ギル、あんまり見ないでよ。恥ずかしい」
「あ、ゴメン」
ギルバートも残りのクリームを食べきる。
残り一個か……。
「ところでギルは何してたの?」
「講義の隙間で昼食を取りにね」
「学生さんだったか……あ、ゴメンお酒飲ませちゃった」
「大丈夫だよこの程度なら。レティシアは何してたの?」
「日課の徘徊よ」
「徘徊?散歩ではないの?」
「宛もなく気ままに歩くの。今日はコロッケのにおいが途中でしたから寄ってみたのよ」
「コロッケによく合うお酒の存在は?」
「常備薬……」
あ、ちょっと固まった。そうだよね……
「よし。さあレティシア最後の一個食べちゃおう」
「そうね」
コロッケを食べ終わり、余韻を楽しむ。
「ギル、お手拭きどうぞ」
「ありがとう。ねえレティシア、連絡先交換してもらっても良い?美味しいお店の情報を共有できるかも」
「ふふ。良いわよ」
ギルは一緒にいても気が楽だし、素で紳士だもの。
「情報とかでなくて、お友達で構わないかしら?」
「ありがとう!嬉しいよ」
うきうきのギルバートを見送って、さて、午後の徘徊に出かけますか。




