翠と橙(みどりとゆず) vol.238 渚沙、薫郎に、低い声で、「あとは、任せたよ~~。」
それから30分後。
渚沙、
「じゃ、私はこれで…。」
橙、
「え~~。帰っちゃうの~~。」
バーテンダー、
「お気を付けて、行ってらっしゃいませ。」
渚沙、
「丹下さん。お願いね。」
バーテンダーに。
丹下と言われるバーテンダー、にっこりと。
「畏まりました。」
渚沙、薫郎に、低い声で、
「あとは、任せたよ~~。」
薫郎の左肩をトンと叩いて…。
薫郎、そんな渚沙に、
「へっ…???」
「那美ちゃん、またね~~。」
女性バーテンダー、
「ありがとうございました。」
カウンターから出て、エントリーに向かう渚沙に伴い…。
少し程よい気分の橙、
「気持ちいい~~。」
薫郎、
「かかか。酔ったか~~ゆず~~。」
丹下、にっこりと、
「ほろ酔い気分ですか~~。」
薫郎、
「そのようで…。」
橙、腕時計を見て、
「8時…37分…。」
そして窓の方を見て、
「綺麗~~。」
そして、スツールから降りて、
「ユッキ、ユッキ。」
薫郎を手招き。その時、少し足元がぐらり。
「わっ。」
「大丈夫ですか…???」
女性バーテンダーが橙の体を。
橙、
「あっ。すみません。ありがとうございます。」
薫郎、
「ゆず~~。」
橙、女性バーテンダーに、
「窓の向こう、見たくって。」
「どうぞ。ご案内いたします。」
薫郎、バーテンダーを見て、
「かかか。全く。」
丹下、にっこりと、
「どうぞ。」
優しい声で。
女性バーテンダー、椅子を用意して、
「どうぞ。座っても、しっかりと…ご覧いただけます。」
橙、
「ありがとう~~。」
椅子に座って窓の外の夜景を見る橙。
女性バーテンダー、
「お客様も…どうぞ。」
薫郎にも椅子を。
薫郎、
「ありがとうございます。」
椅子に座りながら橙、窓際の手摺に手を添えながら。
「綺麗~~。」
薫郎、
「ん~~。」
「私の…デザインが…、生まれた。」
薫郎、
「おぅ。大したもんだ。」
「へへ…。凄いでしょ。」
「あぁ…。」
そして、薫郎のその声に橙、何かしら瞼が熱くなって。
「巽と…、別れた。」
ポツリと小さな声で。
その声に薫郎、
「えっ…???」
女性バーテンダー、
「こちらに、お飲み物を…。」
少し鼻声の橙、
「あっ、ありがとう…。」
薫郎、女性バーテンダーに会釈だけ。
女性バーテンダー、
「ごゆっくりと、どうぞ。」
橙の目が仙台の夜景で潤みだす。
「はぁ~~。」
薫郎、
「ゆず…???」
橙、グスリと…。
「巽…、チーフが…好きなんだよ。」
薫郎、
「ゆず…。」
「でも…。チーフ…、ユッキと…。はぁ~~~。…わたし…、バカだよ。4年も…巽と一緒で、巽から…好きだって、一回も…言われてなかった…。わたし…だけ…、好きだって…、思ってた。好き過ぎだった…ゆずが…バカ。」
この時、ふたりは気づかなかったが、その場所だけ、
照明が最小限ギリギリまで、落とされていた。
橙の声が続く。ポツリと目尻から零れる涙。
「バカだよ、私。巽を…追っかけてばかり…。はは…、迷惑…ばっかり…巽に、掛けてたんだよね~~。また…、大事な人…、なくし…。」
その時、優しく右頬が添えられ、顔が左側に寄せられ、
自分の唇に重ねられたもう一つの唇。
そのまま…5秒ほど。
そして離れる唇。
橙、
「ユッキ…。」
ほの暗い照明の下で薫郎、
「俺も…同じ…。みどから、ゆずを…、頼まれた。」
その声に橙、また涙が…、
「ユッキ。」
「ゆずが…、好きだ。」
全体に照明がほの暗く。仙台の夜景にふたりの頭だけがシルエットのように。
そして、そのシルエットは、また静かに重なる。
そしてその重なりが離れて数秒後。次第に全体の照明が浮き上がる。
その雰囲気に、橙、
「へっ…???」
薫郎、
「あれ…???」
左右を見るふたり。
そして何事もなかった事のように、今度は後ろの方から、
「いらっしゃいませ。」
別のゲストが店の中に…。
薫郎と橙、振り返り、バーテンダーと、女性バーテンダーに、
「す…、すみま…せん。」
ペコリとお辞儀をして。
丹下、
「いえいえ。とんでも、ございません。」




