翠と橙(みどりとゆず) vol.206 瞼が疲れたように、そして…体の力が抜けるように…。
タクシーに乗りながら橙、
「美味しかった~~。」
巽、
「あぁ~~。しっかし、あの…杉浦君。料理…上手い~~。もしかして…、俺より…。」
橙、気持ち良さそうに、ゆったりとしながら、
「ふ~~~ん…。」
「うん。俺より…、料理…上手いかも…。」
瞼が疲れたように、そして…体の力が抜けるように…、
「だれ…が…???ユッキ…???」
ニッコリとしながらの橙、目を閉じたまま…。
巽、いきなり橙の口から洩れた言葉、
「ユッキ…???」
その瞬間に、橙の頭が巽の右肩に…。
巽、
「ゆず…、今…なんて…???」
静かな寝息で眠ってしまった橙。
「おっとっと。寝ちまったか…。」
そして、
「まっ、確かに、飲んでたもんな~~。」
橙の右肩を優しく抱きながら…。
巽、以前の事を思い出して、
「ぷっ。しっかし…、これって…、デジャブ…???あんとき、みども…そうだったよな~~。タクシー、乗っても起きなかった。店の裏口の玄関でも…起きなかったもんな~~。」
そして、
「それにしても、あれから…10年。また…みどが、近くにいる。はははは。」
その数秒後、
「…ん…???運転手さん…???」
タクシーの運転手、
「お客さ~ん。ちょっと、時間…掛かるみたい…。工事中でさぁ。」
巽、
「あぁ…。はい。」
巽の右脇に抱かれながらの橙、何故か涙を溢して…。
アパートの前で止まるタクシー。
巽、
「かかかか。完璧に熟睡か…。さて。」
タクシーの運転手、
「お客さん…大丈夫ですか…???なんだか…足取り…???」
巽、
「あ~~。いや…。はい。なんとか…。はははは。」
そう言いながらも、部屋まで一緒に橙を送り届ける運転手。
巽、
「ありがとうございます。」
運転手、
「あいよ。毎度~~。」
巽、橙の部屋の暗証番号を押して、ようやく橙をベッドに。
「飲み…過ぎ…たか…ゆず~~。」
ベッドの上で静かに眠っている橙。
「…けど…。ありがとうな。毎日、毎日、見舞い来てくれて。ゆずと、みど、そして店長の見舞い…なかったら、こんな風になっちゃいなかった。」
巽を背に眠っている橙。
そんな橙の閉じているはずの…まつ毛を濡らして…涙。
「ゆっくり…、おやすみ…。」
そして、
「さて…、帰るか…。」
立ち上がり、ドアに向かって一歩、二歩。
「うっ。うっ…。うう…。」
巽、
「へっ…???」
目をパチクリさせて、
「えっ…???」
後ろを振り返り、
「ゆず…???ゆず…???」
体を震わせて泣いている橙。
すぐにベッドに戻って、橙の肩をさすって巽、
「ゆずっ。」
そして自分の顔を向かせて巽、
「ゆず。」
口を真一文字に閉じて泣いている橙。
「ゆず…。まさか…おま…。今の俺の話…???」
橙、ただ、ただ、体を震わせて泣くばかり。
そしてようやく、
「巽…、チーフの事…。」
しっかりと巽に向き直って。
「う…。う…。巽…。うっ。うっ。やっぱり…。巽…。」
巽、
「ゆず…。」
「みどって…、みどって…言ったよね…。巽…。」
泣きながら、掠れた声で、橙。
そして、いきなり、
「あ…、あ~~~~~。」
泣き声と共に、巽に抱き付く橙。
「あ~~っは、は、は、は~~。」
巽に抱き付きながら、巽の背中を叩く橙。
自分に抱き付いて泣く橙。
ただ、巽はそんな橙の体を支えるだけで…。
「ゆず…。ゆず…。」
そして、ようやく、一言、
「…ごめんな…。」
その声が橙に聞こえたのか…、また再び橙の鳴き声、
「あ~~っは、は、は、は~~~~。」
そして、遂に、橙をしっかりと、抱きしめる巽。




