翠と橙(みどりとゆず) vol.196 「はははは。さっすが…。生活感…全くなし。」
「はははは。さっすが…。生活感…全くなし。」
病院に入院、そして脳梗塞リハビリテーションセンターと。
併せて大凡2か月振りの巽のアパート、その部屋。
「埃、溜まってんじゃないの~~。とにかく窓開けよ。」
知美。
「まっ、時々来て、掃除くらいはしておいたんだけど…。…あっ、郵便受けの、テーブルの上。…一応、何も目を通しては…ないけど…。」
巽、
「ふん。サンキュ。かかか、まま、綺麗では…あるよね~~。」
そんな巽の声に、
「な~に言ってんの、病み上がりの人に、全く掃除してない部屋、寝泊りさせられますか。」
「ごもっともで…。」
「まっ、誰か好きな人で、面倒看てくれる人がいるのなら…。…別ですけど…。」
お湯を沸かして、お茶の準備をしながら知美。
その声に巽、
「かかかかかか。いるんなら…良いけどさぁ~~。」
「あら、いないの…???…あ~~んなに、見舞いに来てくれる人、圧倒的に女性ばっかりで…。」
そんな母親の声に巽、口をすぼめて天井を見るように。
知美、カラーボックスから料理の雑誌を取り出して、
「特に、本条さん。あの人、かあさん…好きだなぁ~~。」
「はい…???店長~~???」
右手をひらひらと巽。
知美、
「うん。すんごい家庭的で、仕事も出来て、人に好かれるタイプって、かあさん、見たけど…。」
「いやいやいや。ないないない。店長、しっかりと…付き合っている人、いると思うし。」
「へっ…???そうなの…???」
そこまで母親に言われて巽、
「あっ。いや~~。実際に、店でそんな話し…???全く出ないけど…。恋人…くらいは…いるんじゃ…。」
「なによ、あんただって知らないんじゃない。」
「いやいやいや。…んな事言われても…。」
口を濁しながら、
「…上司…だし…。」
「…と、言う事は、それとは別に、一応、気に留めている人は…いるって…ねぇ~~、巽。」
「いや…。いるっつぅか~~。ん~~。」
「あの子…???」
「あの子って…???」
巽。
「木葉さん。」
その名前に巽、
「……。」
「あの子はダメ!!!」
その一言に巽、
「へっ???」
「あの子には、あの子に似合いの男性がいる。かあさん、そんな気がする。」
巽、
「いやいやいやいや。またまたまた。」
「もし仮に、あの子があんたの事、好きだと思ってても、多分、あの子、あんたに負んぶに抱っこ。そんな子だよ。」
その声にいきなり声を上げて巽、
「何言ってんだよ、なんでかあさんが、そんな事、分かんだよ。」
そんなむきになる我が子の顔を見て知美、長し目で、
「ふ~~ん。…てぇ~事は…、あんた、木葉…さん、好きなんだ。」
「いやいやいや。そんな事、言ってねぇだろ。」
「じゃ、嫌いなんだ。ふん。」
「それもねぇよ。」
「んじゃ、どっちよ。…まさか、今更、単なる友達です。な~~んて、言うんじゃないでしょうね~~。あんなに毎日ってくらい、見舞いに来てくれてる人~~。」
巽、ぶすっとした顔で、小さく、
「うるせぇ。」
「でも…、不思議よね~~。あの…逢坂さんって人。」
巽、いきなり鼓動が高鳴り、ドキン。
「えっ…???」
「もしかして…、木葉さんと同じくらいあんたの見舞い来て…。あんたの事、好きなのっかな~~。付き合っている人…、いる感じなんだけどね~~。」
巽、お茶を啜って、郵便物を一枚一枚。
知美、
「おぃ。…ったく…とぼけちゃって…。」
そして、
「ふん。」
両手をテーブルに、そして腰を上げて、
「かあさん、帰るよ。明日また来る。」
「いいよ。」
「良かないでしょ。病み上がりの人。ほっとける親、どこにいんのよ。」
「はいはい。分かりましった。」
そして、ドアの外の母親に、
「気を付けてな。」




