翠と橙(みどりとゆず) vol.124 翠、「あの…。店長…、お店…また行きます。」
駅の階段を下りながら、スマホを耳に薫郎、
「そっか~~。そんな事になってたんだぁ~~。遊馬さん…、脳梗塞。」
廊下の壁に凭れながら翠。
「うん。」
薫郎、
「みど…。」
「うん…???」
「大丈夫か、おま…???」
その声に翠、
「大丈夫…って言うか…。まだ…、落ち着かない…。」
「俺…、そっちに行こうか…???」
「あ~~。うん。来て欲しいんだけど…。でも…。」
廊下のベンチには珂帆が座っている。
「病院の方からも、患者さんの情報…。…それに…、遊馬君の両親もまだ…。」
「そっか~~。……分かった。…ただ、病院は聖露奈理亜医科大学だったよね。」
「うん。」
「なにかあったら、また電話、くれる…???…当然…、ゆずには…???」
その薫郎の声に翠、
「ううん…。まだ…。」
ふと珂帆の方に顔を向けた翠、
「あっ。お母さん…らしい人…。電話…切るね。」
薫郎、
「うん。」
既に駅を出ていた薫郎、通話を切って、
「え~~~。脳梗塞って…。」
数秒考えながら歩いて…、いきなり振り返り、また駅に向かう薫郎。
翠、珂帆の下に。
「初めまして。逢坂翠と言います。遊馬…君の…お母さん…???」
珂帆、
「こちらです。」
病室のドアを開けて。
先ほどからベッドの傍にいる看護師、
「遊馬…さんの…???」
女性、
「はい。遊馬知美と言います。巽は…。巽は…、看護婦さん。」
その後、巽のベッドの傍でひたすらに両肩を落としている母親の遊馬知美。
「なんて…ことに…。脳梗塞…って…。」
ベッドに置いている右手に一滴の涙。
その後、親族の人だろうか、ひとり、ふたりと、病室に…。
珂帆、翠、病室に入り、
「すみません…。私たちは、これで…。」
ふたりに振り返る知美。そして翠の両手を持って、
「ありがとうございました。本当にありがとうございました。一緒に付いてくれて、本当にありがとうございました。」
何度も何度も頭を下げる知美。
翠、
「あっ。」
困ったような…ありがたいような、複雑な気持ちで、
「いいえ…。私なんて。」
珂帆、翠の肩に手を当てて…頷き…。
翠も顔を珂帆に…。
そして、知美に向かって、
「失礼…します。また…、伺います。」
知美、
「ありがとうございます。よろしくお願いします。」
病室にいる3人の人物もふたりに深々とお辞儀をして…。
病室を出て、ふたりともに、何も話さず…。
そのまま…エントランス…。そしてドアの外。
珂帆、
「ふぅ~~。…」
そして翠を見て、
「逢坂さん…大丈夫…???」
そしてすぐに、
「…なぁ…訳、ないよね。」
翠、
「えぇ…。…まだ…、倒れたときの事…。」
「うん。」
そして翠、
「あ…の…。店長…。」
珂帆、
「ん~~???」
「ありがとう…ございました。」
珂帆に向かってお辞儀をして。
珂帆、
「ううん…。私の方こそ。一緒にいてくれて…ありがとう。」
そして、
「…けど、参ったよね~~。」
腕組みをして…。
「…でも、切り替えるしか…、ない。」
翠、
「……。」
「さて。仕事、仕事、仕事~~。」
「店長…。」
「じゃね。お客様…待ってる。」
翠から離れる珂帆。
翠、
「あの…。店長…、お店…また行きます。」
そんな翠の声に歩きながら、振り向かずに、右手を挙げて振る。
「いつでも~~。歓迎よ~。」




