翠と橙(みどりとゆず) vol.106 「逢坂翠、ここにいるよ。」
右左見ながら、立ち止まり。
そして今度は前に進み歩きだして…。ひとりの男性。
けれども、また振り返って。頭を傾げながら…。
そして頭を掻いて、ため息をついて。
その時、
「ユウマ~。」
その声に男性、
「へっ…???」
「逢坂翠、ここにいるよ。」
そして男性、通りの逆の方に振り向き、ベンチに腰掛けている女性を見つけて、
「みど…。」
翠に駆け寄り、
「びっくりした…。いきなり店…出てくから…。」
巽の顔が少しずつハッキリと。
「ごめん。いきなりだったから…胸、いっぱいだった。居づらくなっちゃって…。」
自然に翠の隣に腰掛けて、
「ごめん、俺の方こそ、いきなりあんな事…。」
「ううん…。はは。僕から俺に変わった~~。」
巽、
「あっ。」
「でも…、そっちの方がいいよ。そっちの方が、ユウマらしい。」
「ごめんな、みど…。」
「な~~に、謝ってるかな~~。別にユウマが悪いんじゃないよ。…って言うか、私は…、あの時、ユウマに助けられたんだよ。私なんて、ユウマにお礼しなきゃなんない。」
「えっ…???」
「だってそうじゃん。あの時、病院の屋上…。もし、ユウマが私を捕まえてくれなきゃ、私、今、ここにいなかったかも…。」
その話に巽、
「ま…あ…。そう…なる。…ん…???…何言ってる。死のうなんて、考えるなん…て…。」
けれども、すぐに翠、怒ったように、
「でもさ。なんで黙って退院するかな~~。」
その瞬間、また、目が潤んで…。
巽、
「あっ。」
翠、いきなり涙ぐんで、涙声になって、体がふらりと、巽の左肩に凭れるに、
「…好き…だったのに…。」
巽、
「みど…。」
自分の肩に凭れる翠の左肩を静かに、優しく撫でるように抱く巽、
「……。」
前を通り過ぎる人。笑いながら話をしている男女。
通りには右左に走り去る車。
「みど、みど、帰ろ。」
けれども声がない。
巽、
「…ん…???うそ…???…マジで…???…おま…、酔った…???…やっべ~~~。」
巽の肩に凭れて、すやすやと眠っている翠。
巽、
「参った~~。この状態で、眠れるか普通~~~。」
…数分、そのままの状態であちらこちらを見ながら…。
そして、意を決っしたかのように…。眠りを起こさないように…。
「ちゃんと捕まっててくれよ~~。」
翠を背負って歩き出す。
ドアをガラリと開く。
雅樂、
「はいらっしゃ~~い。」
絃、
「いらっしゃいませ~~。」
お辞儀をして客の方に。
「おひとり様…???」
客、絃に、
「ちょっといいですか。」
絃、
「あっ、はい…???」
客、絃の顔に近づいて、耳打ち。
絃、
「はい…???」
客、そのまま、
「じゃ、お願いします。」
絃にペコリと頭を下げて。そしてそのままドアを開けて外に。
絃、頭を傾げて…、目をキョロキョロと…。
そして、
「え~~っ???」
いきなり振り返って、裏口の方に。
カウンターの中で雅樂、
「はぁ~~~???」
トイレから出てきた薫郎、急ぎ足の絃に、
「???どしたの…、絃…???」
絃、いきなり、
「みど、みど、みど、みど。」
薫郎、
「はぁ~~???」
そして裏口の玄関、下駄箱のそばの柱に背中から凭れて眠っている翠を見て、
「はっ???なんで…???全然気づかなかった。みど!!!」
絃、
「みど、みど。みどさん。」
両肩を揺らして。
そしてようやく、
「ん…。ん~~。くくく、さすが…関口…めぐ…。ん~~。」
目を閉じたままの翠。そして頭をカクンとして、今度は絃に抱かれるように。
絃、いきなりで、
「おっと。」
その瞬間、翠、ようやく目を覚ます。
「ふぁ~~~。」




