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08 魔族領への突入と新たな脅威

「信じてください! 私は魔女ではありません!!」


 もはや日常と化した魔女裁判の場で、今日もまた、一人の女性がいわれなき罪によって裁かれようとしていた。セーラが魔女の刻印を押されてから、すでに三年が過ぎている。その間に魔女の疑いをかけられ、裁判にかけられた女性は、すでに百人を優に超えていた。


「お待ちください、裁判長! その女性は魔女ではありません!」

「また君か、セーラさん。しかし、その額にある刻印がなによりの証拠じゃないか」

 

 法廷で、身体を拘束され首を垂れる女性の前にセーラが立ちはだかり、「彼女は魔女ではない」と訴える。だが、裁判長を務める大司祭ジークは、つまらなそうにセーラを一瞥すると、女性の額を指差し、「それが何よりの証拠だ」と冷たく言い放ち、訴えを退けた。


「その女に刻まれた刻印は、治癒魔法や清浄魔法でも消すことができなかったんだ。それに、その顔は忘れようがない。魔王ドラキュラとの戦いの中で、僕が命を懸けて刻印したんだから!」


 ジークは三年前、魔族との戦争のさなか、教会からの密命を受け、聖遺物「創造主の神判」を用いて魔女の捕獲を任されていた。しかし、魔女(セーラ)の魔力はあまりにも強大で、ジークが全魔力を注ぎ込んでも、刻印を刻むのがやっとだった。


 それまで教会が把握していた魔女の情報は、容姿という曖昧なものだけだったため、多くの冤罪を生む原因となっていた。そのため、魔女の捜査と捕獲は困難を極めていたが、ようやく確実な証拠である「刻印」を得た教会は、世界中の国々に協力を呼びかけ、本格的な捕縛活動を開始した。


 その結果、数多くの女性たちが捕らえられ、裁判にかけられた。しかし、その全員が、出世や褒賞を目当てに動いた穢れた聖職者たちの犠牲者でしかなかった。


「そうですか、確かに、彼女の額にある刻印は特別なものようですね」

「君もそう思うなら、引っ込んでもらおうか、聖女皇(・・・)セーラ様」


 ジークは、皮肉と嫉妬を込めてその称号を口にする。セーラはこの三年間、あらゆる魔族との戦争に参加し、たびたび目覚ましい戦果を挙げてきた。もはや『大聖女』の地位さえ彼女にはふさわしくないとされ、伝説上の称号にすぎなかった『聖女皇』の位が正式に与えられたのである。


 その地位は、教皇に次ぐ、教会内で実質第二位の権威を持つものだった。本来なら、ジークのような発言は到底許されるものではない。だが、ここは彼の管轄する裁判所であり、さらに二人は「かつての同級生」という間柄もあって、かろうじて黙認されていた。


「いいえ、聖女皇として、罪なき者を見過ごすことはできません!」


 ジークから「職務の妨げだ」として退場を促されるセーラだったが、彼の言葉に首を横に振って拒絶し、その場で魔法を発動する。


「最光神の裁断 (ホーリーブレイク)」


 セーラが天に向かって祈りを捧げると、突如として、魔女とされた女性を中心に神々しい光の柱が降り注ぐ。その光は拷問によって負った傷を癒し、額に刻まれた刻印をきれいに消し去った。その光景を目の当たりにした傍聴人たちは、驚きと敬意を込めて口々に呟く。


「またセーラ様が奇跡を起こされ……罪なき者を救ってくださった……」


 そして、彼らは次々に膝をつき、神ではなく、目の前の『聖女皇』セーラに祈りを捧げた。



「毎度のことながら、よくやるな、セーラ」

「……アイオス殿下ですか。あなたこそ、よく飽きずに毎回、見に来られますね。政務の方がよろしいのでは?」


 私が、自らの罪をかぶせられ処刑されそうになった女性を救い出し、急ぎ足で裁判所を後にすると、いつものようにアイオス殿下が待っていた。彼は、私が『魔女』であることを唯一知る人物……魔女裁判が行われるたびに足を運び、私が無実を証明する姿を「見物」するため、毎回欠かさず訪れている。


「まぁな、お前のおかげで、もう魔族の脅威もほとんどなくなった。俺の国は豊かで優秀な人材も多い。俺が政務に励まなくても、特に困ることはない」

「……そうですか、さすが世界有数の大国・ランドルフ皇国は違いますね。私の国とは大違いです」


 私はこのうっとうしい皇太子を睨みつけ、小国の第四王女として生まれた私とは違って、随分と余裕があって羨ましい、と皮肉を込めて言い放つと殿下は肩をすくめ、苦笑いを浮かべながら言葉を返してきた。


「まあ、そう冷たくしないでくれ。それに、お前の国だって、お前が伝説の聖女皇になったおかげで、多くの親族に良い縁談が舞い込んでると聞いてるぞ」


 殿下は、私が『聖女皇』になり、並外れた聖魔法の才能と魔力量が世界中に知れ渡ったことで、その血を求める国や大富豪から、私の家族や親族に縁談が殺到していることを把握しているようだった。


 もともと私の国……ウラノス王国は、大国に囲まれた弱小国で、美しい容姿以外に取り柄はなく、周囲の国々や富豪たちと縁を結び、支援を受けることでどうにか存続してきた。


 しかし、私が『聖女皇』となったことで、「ただ美しいだけ」と思われていた王族の血に新たな価値が加わり、これまで第二夫人や妾どまりだった兄妹や従姉たちにも、第一王妃や正妻として迎えたいという申し出が、次々と舞い込むようになったのだ。


「……ああ、そんなことで喜んでいるのは、両親くらいのものですよ。嫁ぐ兄妹や従姉たちは、生まれてくる子どもに何の才能もなかったら……と怯えながら、結局は不安な日々を過ごすことになると分かっていて、なかなか縁談を受けようとはしません……」

「そうなのか……」


 やっぱり、豊かな国の皇太子殿下には、そこまで思いが及ばないのだな……と悟り、「これだから苦労知らずの金持ちのボンボンは嫌いだ」と心の中で毒づく。ついでに、前世でちょっとだけ付き合った金持ちのブサ男のことを思い出して、一気に不機嫌になる。


 とにかく、一刻も早く裁判所から離れたい私は、アイオス殿下を無視してその場を立ち去ろうとした。しかし、背後から、殿下に腕を掴まれる。……私はその手を睨みつけ、「聖女の体に、勝手に触らないでください」と冷たく言い放つ。そして、同時に全身に聖なる電気をまとわせる。


「っつ! おい、お前、仮にも皇太子である俺に対して、不敬ではないか!」

「……すいません、つい神に捧げた身に穢れた手で触れようとしたので、反射的に魔道具を発動してしまいました。テヘペロ……」

「お前、絶対わざとだろ。それになんだ、その『てへぺろ』とは、バカにしているのか」


 私が教会から支給されている護身用の魔道具をうっかり発動してしまい、アイオス殿下を攻撃してしまい、誠心誠意謝罪するが、悲しいことに殿下の心に届かなかったようだ。もっとも、正直なところ、届けるつもりもなかったので、まったく悲しくもないのだが……。


 私の心が見透かされたのか、アイオス殿下にじろりと睨まれる。「……無駄に感が鋭いな」と心の中で毒づきつつ、思い切り悲しい表情を作り、目にうっすらと涙を浮かべて俯き、小さな声で「ごめんないさい……」と呟く。


 そんな可憐な聖女(・・)の姿を見た殿下は、やれやれと首を横に振りながら、「今回だけ大目に見てやる」とため息まじりに呟き、待機させてある馬車で送っていくと、私を誘った。



 俺は、目の前に座るセーラを静かに見つめる。陽光をそのまま編み上げたかのような金色の長髪は、角度によって柔らかく光を揺らし、まるで世界の色彩すら塗り替えるかのようだった。そして、その髪と見事に調和する瞳は、太陽の欠片を閉じ込めたように黄金に煌めき、ただ見返されるだけで、心の奥まで射抜かれるような感覚を覚える。さらに雪のように透き通った肌と、完璧なまでに整った眉目。そのどれもが「人のかたち」をしていながら、人では到達できない美しさを宿している。


 セーラという存在は、ただそこに座っているだけで、見る者の心を奪い、決して忘れられない記憶として刻まれてしまう、そんな存在だった。


「見た目だけなら好みなのだが……」


 俺は思わず本音が口をついて出てしまったが、幸いにもセーラの耳には届いていないようだ。彼女は俺と一緒にいるのが鬱陶しいのか、不機嫌な表情を隠そうともせず、無言のまま窓の外を眺めている。


 ともかく、ランドルフ皇国の皇太子であるこの俺に対して、あからさまに嫌そうな顔をして、まったく媚びる様子も見せない彼女に向け、俺は魔族との最後の戦争について語り始める。


「いよいよ、魔王も残すところあと一柱のみとなった。黒骸竜デスドラゴンに始まり、不死王ドラキュラ、深海の女王スキュラクィーン、天空の覇者グリフォンロード……。お前のおかげで、魔界を支配していた強大な魔族たちは、次々と討伐された。本当に感謝している。そして、いよいよ、1カ月後に最後の戦争が始まる」


 その言葉に、これまで一度も目を合わせようとしなかったセーラが、初めて俺の顔をまっすぐに見つめる。そして、聖女とは到底思えないほど、凶悪な笑みを浮かべた。

ここまでお読みいただきありがとうございます!


魔女裁判を通して、セーラの葛藤と“立場の危うさ”が見えた回でした。

物語もいよいよ後半戦に突入です!


よろしければ、ブクマ・感想などいただけると励みになります!

※本日中に最終話まで一気に投稿予定です!


他にも

・『転生忍者は忍べない』

・『呪術と魔法は脳筋に』

など投稿中ですので、興味があればぜひ!

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